2002年2月9日(土)

 きょうも雨降りだ。8時に起きる。せっかくの朝食付きなので、半地下になっている食堂へ行ってみる。テラスといった感じで建物から張り出してあり、温室のようにガラス張りになっていて、とても明るく気持ちがいい。置いてあるものはパンやコーヒー、ジュースといったもの。でもこういうところで食べると、とても美味しい。
蚤の市へ行く
 やっぱりホテルを出るのが
10時になってしまった。きょうは、クリニャンクールの蚤の市に行く事にする。メトロの4号線に乗り換えて「ポルト・ドゥ・クリニャンクール(Pte. de Clignancourt)」駅に向かう。この路線、黒人の方達が多いようだ。

 4号線の北側の終点がクリニャンクール駅。ホームにある駅周辺の地図を見ている日本人夫婦がいた。僕も一緒になって地図とにらめっこ。僕「分りましたか?」。夫婦「いやあ〜」。僕「僕も分らなくて、初めてなんですよ」。などと話をしながら階段を上るが、その夫婦とは人ごみに紛れてしまった。僕らの怪しい風体に危険を感じたのか?。

 人の波に乗って歩いていると、露店がずらり並んだ蚤の市に着いた。ここは衣類ばかりの一角のようだ。高速道路をくぐって向こう側に行くと、こちらは常設店になっている。こちらもたくさんのモノと人でごった返している。
やられたか!
 人ごみの中、スリや引ったくりに気をつけようとショルダーバッグをたすき掛けにしてお腹のところに持ってきてあったのだが、やられてしまった。後ろから来る車に脇に寄ったところ、真後ろにいた○○人系のあんちゃんが僕の肩にタバコが当たったと、コートの左肩についた灰を払い始めた。僕も隣にいた弟もそれに気を取られ、大丈夫かなあ、焦げてない?などと言いながら
10メートル位歩いた時、ふとショルダーバッグのチャックが開いているのに気がついたのだ。気をそらしているうちに仲間が金目の物を抜き取ろうとしたのだろう。鮮やかな連係プレーだ。幸いバッグにはガイドブックやメモといったものしか入れていなかったので実害は無かったが、充分に気を付けないとホント危ない。どのガイドブックにもスリに気を付ける事と書かれてある。日本人と見ると必ず狙ってくると思っていいかもしれない。
食事をするのもひと苦労
 とにかくこのクリニャンクール、とても広い。道も斜めに走っているので、方位磁石を持って行った方がいいだろう。トイレは有料。入り口にいるおばさんに
35セント(だったと思う)を渡す。細かいお金は常に用意しておかなくちゃ。
 ぐるぐる見て回りお昼も過ぎた。レストランに入る事にする。ちょっと入りにくいのだが、仕方がない。席に着いてメニューを見る。…目が点になった。当たり前の事だが、全部フランス語だ。店の人に聞くが、この人英語がダメのようで隣の客に聞いて、これがダック、これがフィッシュと説明し始めた。弟はダック、僕はきのうの件もあって肉はやめて魚にする。まったく色んな人に迷惑をかけている。けど、料理は美味しかった。
 市の中をずっと見て回ったが収穫は無し。探していた本もここには無いようだ。
とにかく雨降り
 シトロエン社の創業者アンドレ・シトロエンさんのお墓参りのためモンマルトル墓地に行こうと、クリニャンクールの西側の駅、「ポルト・ドゥ・サントゥアン(
Pte. de St Ouen)」駅で13号線に乗り「ラ・フルシュ(La Fourche)」駅で降りる。外に出ようとしたら土砂降りの雨。みんな出口付近で足止めを食らっている。これはダメだ、弟は傘を持って来ていない。とにかく連日の雨。傘を買おうと、駅から出なくても買い物が出来そうな「モンパルナス・ビアンヴニュ(Montparnasse Bienvenue)」駅に行く事にする。【実はシトロエンさんのお墓はモンマルトルの墓地ではなかったのだが、それに気付くのはずっと後のこと。】
 
モンパルナスの駅に着くと、やっぱりアサルトライフルを構えた兵士達がうろうろしている。構内にカバンや傘を売っている店を見つけた。弟は傘を、僕は持っているショルダーバッグがポシェットのように小さいので、別のバッグを買う事にした。約
3千円。安物だ。
カフェで一息
 もう
1件、ミニカー屋さんに行こうとメトロの4号線で「シャトレ(Chatelet)」駅へ。駅から出たところで、またトイレに行きたくなってカフェに入る。と言っても、店の中ではなく、通りに面したテーブルに座る。大きな庇が出ているので、雨でも大丈夫だ。ヒーターも付いていて結構温かい。エスプレッソを注文して一休み。1杯2E。ずっと歩きずくめだったので、ちょうどいい休憩だ。

 トイレを借りようと店の中に入り、店の人に「パルドン」と声をかけたら2階を指差された。ここでも、トイレと言わなくても分るらしい。ここのトイレはまあ普通だが、足元のペダルで水を流すようになっている。それにしても、外国の小便器は高い位置に付いているのが多い。背の低い人だっているだろうに。
ミニカー屋さんに入る
 さて、暗くなってきた。『
Boutique Auto Moto』というミニカー屋さんを探す。しばらく探し回っていると、見つけた、ここだ。中に入ると、たくさんのお客。シトロエンもたくさんある。ただ、とても珍しいものや絶版品などは無かった(ようだ)。お客の中に日本人らしき人もいたが、知らぬ振りをする。

 何故か日本人は、海外で同じ日本人を見かけると知らん顔をしてしまう。僕もその一人。仲良くなれば、役立つ情報が得られるかも知れない貴重なチャンスなんだけどねえ。反省。今度から勇を奮って話し掛けてみよう。
おもちゃ屋さんに入る
 ミニカー屋さんを出てポン・ヌフ橋を渡り、弟の友人から教えてもらったおもちゃ屋さんに行く。
Dauphine通りにある小さな店で、きのう入ったおもちゃ屋さん同様、木や布といった素材で作られた、やさしい感じのするおもちゃが所狭しと置かれてある。店の名前は『Le Monde En Marche』という。

 こういうのを見ると、日本のおもちゃ屋に並んでいる物は本当に子供の為に造られているのだろうかと、疑問に思ってしまうに違いない。日本にもこのような店がたくさんあればなあと思ってしまう。
電話が掛けられない!?
 今夜は
8時に弟の友人でフランス人のAさん宅へ伺う事になっている。彼女は1ヶ月前に元気な男の子を産んだばかり。「オデオン(Odeon)」駅から4号線に乗り、「バルベス・ロシュシュアール(Barbes Rochechouart)」駅で2号線に乗り換え、「ピガール(Pigalle)」駅で降りる。7時半を過ぎた。もう真っ暗だ。

 弟が先に立って、Aさんのアパルトマンを探す。あらかじめ地図で調べてあったのか、弟はどんどん歩いていく。途中バーの客引きに声をかけられるが無視。だいたい何を言っているのか分らない。この通りの筈だと5〜6分歩いてAさんのアパルトマンを見つけた。何号室か分らないので、電話を掛けて下の入り口まで迎えに来てもらう事にする。

 来る途中見かけた公衆電話まで戻る。さて掛けようとするが、コインの投入口が無い。テレフォンカード専用の電話機だ。もちろんテレフォンカードなど持っていない。万事休す。この雨の中、どうする。近くのホテルで聞いてみよう。電話も借りられるかも知れない。英語もろくに出来ない二人が、なんと大胆な発想。この辺、あちこちに小さなホテルが点在している。さっそくワラをもすがる思いで、近くにあったホテルに入って聞いてみる事にする。「ウ・エ・ル・テレフォン?」。これで通じたのか「ここには無い、そこの角を曲がったところに公衆電話がある」という返事。テレフォンカードが無いと言うと、わざわざ外まで出てきて「向こうの角にタバコ屋があるからそこで買え、赤い看板だ」と教えてくれた。確かに赤い看板が見える。丁重にお礼を言って、赤い看板に向かって歩き出す。

 近付くと赤地に「
TABAC」の文字。テレフォンカードは「Telecarte(テレカルト)」と言うらしい。弟はさっそくカードを買って急いで電話を掛ける。もう約束の8時を回っている。
おじゃましま〜す
 アパルトマンの下で待っていると、旦那さんが迎えに降りてきた。エレベーターで上へ、そして部屋へ招かれた。天井が高い。居間のソファーには、赤ちゃんを抱っこしているおばあさんが座っている。「アンシャンテ」と、あらかじめ覚えていた言葉を言いながら中に入る。床には絨毯が敷かれ、日本風に低いテーブルがしつらえてあった。よくよく見ると、伏せたバケツの上に板を載せただけのものだ。ジャパニーズスタイルで、もてなそうという事なのかも。

 靴を脱いで座る。彼女と弟は数年前、日本で一緒に仕事をしたのだと言う。旦那さんも建築関係の仕事をしていて、時折日本を訪れているそうだ。まずはワインで乾杯。そして日本からのお土産を渡す。郷土の特産、紅花染めの巾着とサクランボの漬物だ。西洋にはピクルスというのもあるし、二人とも日本で漬物は食べたことがあると言うので大丈夫だろう(多分)。生まれたばかりの息子さんには、小さな鎧兜の土人形をプレゼント。「ディス・イズ・サムライ、ストロング・アンド・ブレイヴ、ライク・ヨーロピアン・ナイト」と説明したが、納得してくれたようだ。

 Aさんとおばあさんで夕食の準備をしてくれた。出てきたのは、チーズ・フォンデュだ。こちらでは良く食べるものなのだろうか。僕はチーズ・フォンデュ初体験。とても美味しい。ご馳走を頂きながら色々話をする。会話は英語で行われたが、時々辞書を引っ張り出しての会話になった。弟は何とか話をしているようだが、何せ僕も英語力は無い。しかし何とかなるものだと思った。だがもっと話せるようになれば、もっと楽しい会話ができた事だろう。フランス語が出来ればもっといい。おばあさんは英語が話せないようだ。いちいちAさんがフランス語に訳して説明していた。

 ふと、きのう見かけたトイレの話をした。デジカメの映像を見せると、これは「
turc toilette」と説明してくれた。トルコ風トイレという事か。やっぱりこれで大小兼用するのだという。水を流す時には気を付けるようにという事だった。

 そうこうしている内に
12時になろうとしている。メトロの終電は1時頃と言うので、そろそろおいとまする事にする。みんなで記念写真を撮って、帰りの仕度。玄関先では、おばあさんと頬と頬を合わせて別れのあいさつをした。初めての体験だ。

 夜も遅いので、ホテルまで乗り換え無しで行ける8号線の「リシュリュ・ドロオ(
Richelieu Drouot)」駅まで、旦那さんが送ってくれることになった。駅に向かう途中で振り返ると、モンマルトルの丘の真っ白な『サクレ・クール寺院(Basilique du Sacre-Coeur)』が、暗闇に浮かび上がって見えた。
門限
 ルイリー・ホテルは門限があり、夜
11時から朝7時まで玄関の扉が閉められる。その間は呼び鈴を押して開けてもらう事になる。この時やっぱりチップがいるんだろうなあ。すっかり忘れていた。わるいことしたかなあ。