釣行記 | トップページ
 釣行記

朝日山系 梵字川支流小沢

近くて遠い小沢とは

青 木 昌 智

 なんかおかしい今年の夏、梅雨明け宣言がないなんてあるのだろうか。偏西風の乱れと報じられている。このかつてないほどの異常気象の原因が“自然破壊だ”なんてなっていなければいいのだが、と心配し3日間大水が出ないことを願った。
 今回の山行は私の「武田さん、どっか連れて行って。」から始まった。日程を調整して頂き実現した今年初の群遊会山行である。メンバーは武田さん、野崎君、青木である。のざっくんは群遊会での山行は初めてでかなり緊張の様子。
三人で荷物の配分をして三遊記の始まりです?

 究極の高巻き1

 1時間ほどで本流に降り立った。もう1つ小さい山を越えれば目指す小沢にたどり着く。しかし、その越える山がなんとなくでかい。ここが運命の分かれ道、本流を小沢出会いまで下がって川沿いに遡行するか、それとも山越えをして小沢を目指すか、武田さんが地図を見ながら判断している。山越え(地図上では岡超え)ルートの指示が出た。

ここから、誰もが想像しなかった訓練が実施された。登っても登っても下りにならず、結構な高度になってきた。休憩をとっても1分で足がぱんぱん。のざっくんは「どこに連れて行くんだよ。」と無言で訴えている。2時間もさまよっただろうか。沢の音が聞こえるたびに妬けに期待するのだが流れが逆だ。「ドゥー」とか「はー」とか言いながら気を紛らわした。こんなに登るはずがないと気が付いたのはこのころだった。読図の博士がいきなり、「猿も木から落ちるよ。」と言っています。「はぁ?」と試み、滝ではない川を大高巻きしていたのである。永遠に行けば八久和ダム下流に着いたであろう。「これはトレーニングだよ。」と励まされ、猿も木から落ちるかあ、と考えながら尾根伝いに下りはじめた。木から落ちた三遊記の猿(悟空)は武田さんのことらしい。
「カッパの川流れ」・・・・そんなことないようにしなければ、「豚に真珠」・・・山道具持っていても使い方がわからない。
 などと我が身を振り返り、ボーっとしながら下る。そんな時、武田さんから見透かされたかのように、「こんなとき、案外ケガするから気をつけてね。」と声がかかった。
 尾根伝いから沢に入り、軽く昼食をとった。その後も気を引き締め下った。小さい沢であるが滝巻きがないことを願い、小沢を目指した。落石を出して迷惑をかけてしまうので、先に行かせて頂いた。
 やっと、目指す小沢が見えてきました。川への入りは滝になっていて、少し巻いて小沢に到着です。1時間半で到着するらしいところを四時間程かけたのだろうか。すぐに武田さんは地図でどこをたどってきたか、小沢のどの位置に下りてきたのかを確認の様子である。私は暢気に蛙の写真撮りをして、のざっくんはやっと川をみることができ安心している様子だった。もう、私はこのころから、早くビール飲みてーモードに入っていた。のざっくんはロッドを出して魚影を確かめている。早くテン場、早くビールと思いながらのざっくんのルアーを眺めた。「きた。きた。」とすごくうれしそうだ。釣に没頭する様子を見ると、彼だけは究極の登山高巻きの苦しさがぶっ飛んでいるようだった。
 武田さんとテン場にできそうなところを探しながら遡行した。河岸段丘上を探しながら、「ここは水くみ大変そう。」とか「酔っぱらったらやばそー」などと言いながら快適なところを探し求めていた。少し遡行したところに武田さんが快適なテン場を設定した。タープを張り、早速ビールで乾杯!いつもこのビールがおいしくてたまらない。
 武田さんは、山行中の酒量を調整するそうですが、私はテン場にもどった時の最初のビールは人数分確保したいと考えている。もちろんみんなの分。しかしこれがやっぱりがさばる。あっそうか、人の分まで運ばなければいいのかな。なんて考えながら、のざっくんと薪をちょうどいい長さに揃えたり、小枝を拾ったりして夜の宴会焚火に備えた。
 その後、武田さんに5時までの約束をして釣に出かけた。武田さんは、「刺身食いたいなー」と我々を見送った。のざっくんはルアーで、私はドバミミズでの餌釣。大場所だけ竿を出し、釣り歩いた。ドたりがあった。とりゃー、と合わせたがかからない。そうだ、ドバミミズだったと思いもう一度、同じところに放り込む。またきた。こんな時、釣り人は「きたきた」と叫んでしまう。私だけだろうか。今度はクンクンときて竿先がグーっと撓るまで待ち、あわせを入れた。やっとかかった。思わずのざっくんの方を見て、にっこりしてしまった。のざっくんは、追ってくるけどなかなか食いつかないと首を傾げている。ルアーにもよさそうな場所が現れてくる。のざっくんは、3匹は釣らなければという思いがあるのか、もう少し釣りたいような顔をしている。私は約束の

時間を考えてテン場にもどることをのざっくんに告げた。
のざっくんはあと30分釣り上るというので無理をしないようにと約束し、私は先にテン場に戻った。
 武田さんはテン場前でつまらなそうにテンカラを振っていた。飲まないでいたかどうかは定かではありませんが、まだ酔っていないような気がする。
 しばらくするとのざっくんが人数分3匹の岩魚をキープして帰ってきた。人数分というのがなかなか憎い。 
 早速、三人で宴会の準備に取りかかった。私は岩魚の解体に取りかかったが、なかなかうまくいかず、のざっくんに頼んだところをちょうど武田さんに聞かれてしまい、「あまやかすな」の一言が入る。岩魚の頭をくるくる回しながら「どっち頭、右、左、こっち?」と独り言をいいながら何とかやった。武田さんは炒め物、天ぷらの準備を済ませ、のざっくんはどんなときでも食べるご飯の準備を済ませ、腰を落ち着かせ宴会の開始である。
 のざっくんは「こんな型のいい岩魚は福島じゃ釣れませんよ。」と満足そうに武田さんに告げている。武田さんは「ほー、でかいけえ、これでもここのは小さいんだよ。」と気持ちよさそうに飲んでいる。「明日は朝から刺身か。」と言う武田さんの一言にのざっくんは忠実に「はい、じゃあ釣ってきます。」と即答していたのがまたスゴイ。彼は釣り師だ。 
 雨の心配もなく夜空には星が、川原には蛍が舞っていた。渓の隙間から一番星を探したのは私で、一番蛍を探したのは武田さん。一番先に探しても何ももらえない。
 二日目、一番早く目を覚ましてしまった。コーヒーの湯を沸かしながら、テン場前で竿を出してみた。3回流してやめた。みんな起きてこないので2度寝を試みたが尽くボツ。みんな起きてしまったので三人でコーヒーを飲みぼんやり。のざっくんは、ご飯の準備を始め、今度こそは上手く炊くぞ、と燃えている。でもまだまだ根かりの齋藤さんには及ばないと武田さんに念を押される。ちょっと早い朝食準備のスタートに面食った。これまで私の参加した山行では一番早い朝食であった。のざっくんペースなのだろうか。

究極の高巻き2

 スタートが早いにもかかわらず、今日はゆっくり行けるところまでの計画となった。
 前日のざっくんと釣り上がった少し先で、私たちとは違ってまともに小沢に入渓した親子に出会った。武田さんが、我々はアミガサ滝越えから入渓したいと親子に話した。その親子は「気をつけて」と快く我々を先行させてくれた。親子で楽しい釣りができることを願い我々は遡行に専念した。
  しばらくするとアミガサ滝が姿を現した。しばし滝をながめ、滝上の渓相を思い浮かべた。武田さんが高巻きの登り口を選定している。滝から離れたところからの高巻き、そして滝まわりの山肌を見た感じではかなりの大高巻きが予想される。最初の登り口はガレが続き落石注意。これだけ登ればもういいだろう、と思ったところで対岸の山を見るとちょうど月山トンネルの入り口(出口?)が見えた。結構登ったな、そろそろ横移動でいいんじゃない。急斜面の横移動の始まり。はじめはこんなものかなと思いつつ、ずーっと続くと苦痛になってくるんですよこれが。基準にする過去の経験がないとこれまた泣きが入る感じです。高巻き中にどんな感じなのかざっくんに聞いてみたかったけど、そんな余裕ないのは私の方でした。そのうちザックが枝に挟まったり、引っかかっただけでもいらいらしてきて強引にしてしまう。武田さんはポイントとなる尾根や大木を指さし我々に的確な指示を出す。
 手前で昼食を済ませ、のざっくんが餌釣に挑戦。武田さんと離れて眺めていたが、竿先がぐっときてあたりがあるのがわかる。のざっくん最初のあたりは外野がうるさく空振りに終わる。二投目もぐいぐいきている。竿をひょいっ、と上げ針掛かりした。これまた嬉しそうでなによりである。餌竿でも釣った。やっぱり釣り師だ。味を占めた釣り師は餌釣を続けた。ついでに私はルアーロッドを振らせてもらった。おー、来る来る、反応がいい。ルアーは食らいつくところが視認できて楽しい。追いかけてくると思わず「食え、食え」と言ってしまう。餌釣りとはちがう興奮がある。
 今度はナメ滝登りだ。登り口は広いナメ岩で、その上を眺めると幅の狭いウォータースライダー状のナメ滝が続く。滝上部で川をジャンプする場面があった。足場はナメが入り、着地点はぬれている。たいした幅でもないのに跳べるだろうかと考える。考えるだけでなくビビル。もし、足を滑らせて滝流れになったら、滑り流れて岩に砕け命危うい場所であった。こんな時なぜか、失敗したらどうなってしまうのかシュミレートしてしまう。「どこで踏み切るんですか。着地は?」とあわてながら武田さんに言った。そことそこ、と教えられ情報を入手した。先の二人をお手本に力まずに無事に跳ぶことができた。滝が次々に続く中、のざっくんがルアーを出して魚影を確認して遡行。滝が連続する中にも岩魚がちゃんと顔を出してくれた。やはり、ここ梵字川小沢は魚止めがないと確信した我々はテン場に引き返すことにした。 
 帰りの滝巻き途中、ぶなに昭和年号の入ったナタ目があった。同じようにここを目標として高巻きをしてきた先人がいたことをしみじみと思い、滝を越えても越えても岩魚がいるこの梵字川小沢のすごさを感じさせられた。
 テン場にもどりさっそく露天プールで水を浴び、汗を流した。真っ裸で足がつかないところまでの入浴はとても気持ちのいいものだ。前日のつかれよりも心地のいい疲れだ。岩魚をさばいていると武田さんがミズ菜を採って帰ってきた。3人そろったところで2日間の無事に楽しく過ごせたことに乾杯し、ちょびちょび宴会が始まった。 
 のざっくんは、今日の高巻きはとてもビビリがあった。と話し始めた。あんなところ行ったのは初めてだと言う。実際、私の場合も初めてきついところに行ったときは、疲労とは別にあせりがあったり、極度の緊張が加わったりして体が強張る時があった。このような初めての体験や初めてのメンバーで、自分にとってきついところに行くときは次のようなことを心がけたらいいのではないだろうか。先ず、きつそうなところを通過するとき、自分にはきついということをリーダーなどに伝えることである。また、リーダーに自分の技量をわかってもらうことであると思う。実際、今回のナメ滝跳び越えで、私がザックに荷を積んでいることとおろおろしている様子を察知して武田さんはホローの手をさしのべてくれた。技量以上のことをしてメンバーに迷惑をかけてしまうのは最悪の結果に繋がってしまうときがあるのだろうなと考えた。なんてたまにまじめなことを考えたくらいにして・・・・。
 ところで、この二日間いつもとちがって武田さんの酒の量が少ないような気がした。のざっくんは酒よりご飯派、それに我々の酒の持ちこみが少なく激怒しているのかどうか?   
 飲む量が少ないのに、武田さんは奥さんとの出会いからチョメチョメまでを自分から話し始め、それから順にあおっくんは、のざっくんは、と聞きはじめた。奥さんが恋しくなったのだろうか?
 ヘッドランプの明かりが切れた。武田さんが天ぷらの廃油を使ってランタン作りを伝授。
 空き缶の底に廃油を満たし、巻紙に廃油をしみこませて火をつける。なかなかやさしそうな明かりで趣があった。のざっくんはすごく気に入ったらしく巻紙をいくつも作って楽しんでいる。廃油が追いつかない。私はいつの間にか廃油を加える役になっていた。廃油ランタンのやわらかい明かりを受け、じっと一つの光を三人で見つめた。 
 目覚めは良好、小雨の空模様、一番遅く起きあがってきたのざっくんは早速、米をとぎご飯の準備をして、「武田さん、釣してきます。」と言い、昨日のことを忘れていないようで、それでもって忠実に行おうとしているのであります。やっぱり釣り師だ。武田さんと私は、マジと思いながらも「あまり深入りすんなよ。」と見送った。小雨の中、渓に入って行く後ろ姿をみるとまさにオリバーカーン?私は飲みながらご飯を炊いて朝食の準備を始めた。1時間もかからず、カーンが帰ってきた。それでもって、朝から塩焼きが食べられるようになった。さすが、釣り師。 
 そう言えば朝から雨が降っていた。強く降ってきたので増水量がわかるように川の中の固定物に目印を付けた。時々、強い雨が降るが空は明るい。タープから流れ落ちる雨音ももなかなか心地いい。    
 ブナやミズナラに囲まれた緑、水を編んだような渓が創り出す清らかな模様。このような異次元の空間の中に滞在できたことに心から感謝したい。今回の山行でも山のめぐみをいただき、イワナも少々口にした。そして、魚止めを目指した者・滝を越えた者たちは決まってすばらしい自然が育んできたイワナを愛おしみ、イワナの命を奪うことに自主規制をする。イワナを育むもとであるブナの森を守っていく。釣れても釣れなくとも最終日には再来を渓と約束するのである。自然を楽しみ、守るのは私たち釣り人でもあるのです。

 追伸:今年大発生のスズメバチ

 スズメバチ発見。職場グランドの木の朽ちた穴にスズメバチが群れをなしていた。以前はかわいらしいミツバチが巣を作り住んでいた。ミツバチは近寄ってもなにもしない。一晩あけて、ミツバチはスズメバチに変わっていた?5センチほどのスズメバチは行ったりきたりして何かを運んでいる。おそらく、ミツバチを肉団子にし密を体中につけ運んでいるのだろう。巣をのっとられたミツバチの姿は全くない。
 職場のサブマネジャーは蜂バスターを呼び寄せ1万円の出費。蜂バスターのおじさんの話によると蜂は大スズメバチ。素手で立ち向かう姿にはおどろき桃ノ木さんしょうの木、ブリキにたぬきに洗たく機。大スズメバチの仕事はやはり嫌だと言う。この蜂に刺されればどんな人間でも余命6時間以内だといいのける。
 実は今釣行でもスズメバチの巣に5メートルまで接近していた。のざっくんはそれを知らない。幸せだ。スズメバチの群の発見を武田さんに知らせると、刺激しないように通過の指令。わたしはなぜか蜂と目線を合わせないように通過した。
 余命6時間と聞いてしまうと自己注射の携帯が必要なのか。どうやったら手に入るのかわからない。だれか教えてくださいませ。これからの季節、舞茸採りにはお気を付けあれでございます。
 スズメバチの大発生。異常気象がもたらしたものは生態系まで変えてしまったのだろうか。(あおき まさとも)