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 釣行記

NO.55-1
  朝日山系 枡形川釣行記

驚くべき光景が

青木 昌智

あおっくん 家から徒歩2分の長井労働福祉会館、4時半、我妻会長と待ち合わせた。今回は3日前まで日程調整に苦労した。ドタ・キャンにならなくて良かった。
 メンバーは川上さん、我妻会長、城野さん、武田さん、青木である。
 7時集合、枡形川車止めを目指した。道中、サクラマス釣りの話などに夢中になっていたが目的地が近くなるにしたがい枡形川に行くことが初めてだったことに気がついた。
 「枡形川ってどんなところですか?」
 「ん〜、とてもいいとこだよ。F2上のトロ場には尺上岩魚が群遊しているんだよ。その光景に驚くよ。(釣れないけど)」
 (松島さんが『渓流2002夏 』でド素人の女の子を渓に案内した枡形川である。)
 「マッチャンが書いていた枡形川だよ。なんであ〜言ういい話はおれにこないんだ。」ハンドルを握りながらブツブツ言っている。トクさんに入るのは真夏にウインドブレーカーを着せられ、ネオプレンウエダーを履き、激流の中に立たされる取材だそうだ。全てのモノにメーカー名が入っているとか。モデルさんは大変だとつくづく思った。シマノから送られてきたというサングラスはブルーのフレームがなかなか格好いい。車の中だけでなく渓でかけてほしい。
 なんだかんだ話している間に車止めまで時間通りに到着した。しかし、川上さん、城野さんグループがまだ、到着していない。7時半になっても来なかったら、取りあえず携帯の圏内まで引き返そうということになった。7時半来ない。引き返しに入ったが5分程で合流することができた。昨晩からの通勤ご苦労様でした。「はじめまして」の挨拶も軽く済ませた。川上さんも城野さんも初めてお会いする方だったが、初めての気が全くしない。どうしてだろう。いつも雑誌で拝んでいたからだろうか。
 車止めで2人が小休憩を取っている間ザックに荷物を積み、足回りの準備を済ませた。

間違いは2度繰り返す。
車止めに川への降り口らしきところが2箇所あった。松島さんの情報(渓流の記事)では出鼻から道を間違えて難儀したとのことであった。1時間程藪こぎをしたと言うから、同じ間違いはするものかと全員が思いながら出発したはず。
「ここから降りて、間違えたんだよ。」
と言う声が聞こえたので、安心しながら歩き出した。だれが言ったか忘れたことにしておきます。
我妻さんをトップに川に降り、反対岸に登り、踏み跡を歩き始めた。30分程で踏み跡が無くなった。我妻さんが地図を眺めている。川沿いに歩いているが前方下は崖、左は道なき急斜面。
「あおっくん、ちょっと上見てきてくれる。」我妻さんから苦笑いでの指令が出る。
草を掴みながら100Mほどを一気に登って行った。やっと平らなところに出て見ても森林管理の赤印だけで道らしき道はなかった。開けたところがあったので確認もせず、たぶん道だろう。いや、そうに違いないと勝手に思いこんだ。ここまで登ってきた苦労を自分のものだけにしておいては申し訳ない。
「道、ありました。OK」思わず叫んでしまった。みんな疑わず登ってきた。息が切れているせいかだれも道はどこだと問いはしない。良かった良かった。双方向に分かれ、再び道を探すことにした。

 トクさんが倒木一面に生えるヒラタケに導かれて行っ た。この真っ白な目印とともに踏み跡を発見することができた。同時に渡渉点と対岸への登り口の間違いに気づいた。ここはさすが渓流マン、だれのせいにすることもない。ヒラタケを少しいただき再び歩き始める。(おっと、忘れていたわけではありませんが武田さんの登場が未だでした。武田さんがいたらだれが悪いか責任追求があったかも。と言うことで、武田さんは仕事の都合で後発になっていました。)
途中、使われていない旧ゼンマイ小屋があり記念写真、パシャ。そこを過ぎると片斜面の踏み跡を歩いた。背骨まで片斜面になりそうだった。
テン場に着き到着の乾杯。いつでもこの到着の乾杯と言うものは美味いものだ。タープを張り、薪を集め早速、釣りに出かけた。川上さんと城野さんは岩魚沢へ、トクさんと私は本流へと分かれた。
「我妻さん、竿、新調したんですよ。ほら。」私は『源流彩53』を掲げた。
「あおっくんってなんていい奴なんだ。」何がいいのかわからないが早く尺抜きをしたくてうずうずした。私は餌釣りをするのに餌を持って来ていない。トクさんにブドウ虫をいただき、川上さんと分けた。いつものように、「あおっくん、先行っていいよ。」と声がかかる。なんて心の広い、面倒見のいい方だ。でも、でかいのを見ても黙っていよう。と思いながら釣り上がった。それでも、流石、私が荒らした後でもポンポンと毛鉤で出してくる。私が釣れはじめたのは左岸から悪水が入り込むところを越した辺りからだ。良ポイントが続きポイントごとに岩魚が出る。まだ未熟者で掛けても魚の大きさがわからず、いつも「とりゃー」と抜いてしまう。おチビちゃんまでも宙に飛ぶ。仕掛けを極端に短くしているのが悪い。餌も無くなり、一匹釣る毎にトンボを捕まえながら行った。そうこう遡行するうちに大滝手前の淵に到着。トクさんがテンカラ竿をナップザックに仕舞い込み、トンボ3匹を捕まえ私に手渡し、淵を見ながら顎で指図する。私はトンボの羽根を口に挟み股まで浸かる。足元からでも出てしまうから驚き、3トンボ3投3匹であった。私の「満足です。」の言葉に、トクさんはそうかそうかと、明日登る大滝の様子を見に、淵を泳いだ。
 テン場に戻ると既に川上さんと城野さんはシュラカバーに入り長旅の疲れを癒していた。スパッツパンツ一枚で水風呂に入り汗を流し、着替えを済ませた。このころちょうど武田さんが到着。かなり疲労困憊の様子。最初に口に出たのは、やはりあのルートミスのことであった。
 全員揃ったところで宴会突入、「かんぱ〜い。」このときのため500mlビール9本、日本酒1本、焼酎1本を担いできた。ビール党は大変なので今後はちょいと考えることにして……。などと考えていると
「あおっくん、酔わないうちにちょっと。岩魚の皮はね、こうやって剥ぐんだよ。やってごらん。」(トクさん)「後は頼むよ。」
「こうやって、こうやりゃいいんだよ。城野のは違うよ。」(川上さんのミズの皮剥き講習会)
「ナイフはね、使ったら一回一回ペーパーで汚れを拭き取るんだよ。」(武田さん)「何でも覚えて、次からやってね。」
「これねえ。おいしいんですよ。どうぞ。(城野さん風ではなく本人)」次々に出てくる城野さんの料理、まめなところは見習った方がいいのだろうか?などと言われながら渓で、いや、宴会で遣いモノになるように調教されてしまうのであろう。しかし、飲み込みの悪い私は遣いモノになるかどうか。

 次の日の朝、川上さんと我妻さんがお湯を沸かしコーヒーを入れている。
 本当にコーヒーかどうかは確認していないが…。私もシュラフから這い出て、コーヒーをいただく。すっきり目が覚めた。
 前日から下流にテン場を構えていた二人組みが我々のテン場に立ち寄った。我々は朝飯を済ませていなかったので、快く上流を譲った。と言っても寝ていた方も…。彼らは「タープだけで寝るんですか」とやけに感動していた。
その後、朝食を済ませて、大滝を目指した。前日に大滝まで釣り上がっていたので竿は出さないでの遡行である。すぐにあの二人組みに追い着いてしまった。大滝がもう直ぐのところで朝食を取っている。我々が先に行ってしまえば、二人組みは良ポイントで釣れなくなってしまう。気のいい我々(マイナス1)は彼等の朝食が済むまでその場で待っていた。私はもう直ぐ大滝なのに、朝食は大滝下で取ればいいのにな、と思っていたが口には出さなかった。川上さん持参のバーボンをその場でいただき気持ちを落ち着かせた。
 彼らが上から戻ってくると、再び大滝を目指した。滝左岸を我妻さんが登って行った。間を置いて私が登って行った。中間地点の手がフリーになるところで顔を上げ、大滝を眺めてみた。何か動く物体がある。うひゃ〜、川上さんが滝登りをしている。私はホールドもなさそうで、頂上がめくれて見えないのではないかと思った。あんなところで動けなくなったらどうすりゃ良いの?滝をクリアーすると川上さんが腰を下ろして待っていた。「青木君、竿出しなよ。」西俣沢出合いから竿を出して行った。
 悠々と泳ぐ岩魚、なかなか岩魚の口元に餌を流せないでいると、我妻さんが手を添え、手取り足取りしていただいた。城野さんのテンカラにも岩魚が飛び付いてくる。交互に釣り歩いて行くと何だか渓相が変わった。

何だこりゃ、山抜けで自然湖が。
急角度傾斜・階段状の渓になり、石の色が赤い土ぼこりでもかぶったかのような色になってきた。このころから私を除きみなさんは何だか変だぞと言う顔つきをしている。
 滝が姿をあらわした。
「あの滝の上ですか?魚が群遊しているのは。」(青木)
「ん、違う。」(我妻さん)と右岸を登り上流の様子を確認しに行ったようである。私は以前の様子が全くわからないのでのん気に滝下で竿を出した。
 滝上に出てはじめて異変に気がついた。なんと、滝上は自然湖になっているではな いか。大岩が崩れ、大木が根ごと、地までも流され滝を形成している。そこにできた自然湖は想像もつかないほどの大きさだ。自然湖だけに気を取られ湖面を眺めるばかりであった。流されていた大木はどこから。水底から辿って、ふと顔を上げると、山抜けである。緑一面に覆われているはずの山の一部がスッポリ流されている。扇状に流されているのではない、流れる方向が決められたように一箇所に一気に流されている。しばし、我の頭中で山抜けした時の様子を想像する。どんな音がしたのだろうか。今度はしばらく、山を見つめる。自分を基点に視線が山、自然湖と繰り返される。想像を絶する光景である。自然の中の人間なんてなんてちっぽけなんだろうなどとしみじみ感じていると、フュウ、フュウと城野さんが自然湖に毛鉤を打っている。も〜う、ムードぶち壊し。(城野さん風)それじゃあ、それじゃあ、もっとムードぶち壊しのルアーロッド。ここで出さなきゃ後は出すとこないでしょう。追ってくる、追ってくる。追ってくるだけ。魚はいます。
 ところでこれからどうするの。と作戦会議が行われる。地図を見ながら現在地を確認。右岸に小さな沢が入っているらしいことから道なき未知を登り始めた。ちょろちょろと流れる沢を発見。私が「泳いで見てきますか?」と言うと武田さんが無言で左右に首を振る。その直後にトクさんが湖面を泳いでいた。状況を聞くとバックウォータも見えず、入り込んだ山伝いに自然湖が続いているらしい。想像以上の大きさであることがわかった。川上さんと武田さんは引き返すことを判断していたらしい。じゃあ、自然湖に入ったトクさんはどうなるの。「あおっくん、引き返すよ。」と武田さん。「おい、お前らもここまで来い。おい。」と沢入り口で吠えるトクさん。武田さんはしきりに手でこっち来い、こっち来いと合図する。私はトクさんとなるべく目を合わせないように引き返しに入った。
 何事もなかったかのように山抜けの現場に戻った。ちょうど正午で腹が減った。上流の魚を当てにしていたので魚はない。川上さんがルアーをウキにして毛鉤仕掛けを作った。投げてみたが当たりがない。再度、ルアーに挑戦した。掛かってしまった、小さい、かわいそうな岩魚が、川上さんから「良くやった。」と声が掛かったが喜ぶ大きさではない。この後、魚はどうなったかはご想像にお任せします。
 今夜の宴会には魚が並ばないことに決ってきたようだ。トクさんに私の竿と餌を預けテン場に向かった。大滝を降りる手前でこそっと城野さんに「大滝、テープ出しますよね。」と心配になって聞いた。「出すでしょう。」と言う言葉に安心して大滝までトップを突っ走ってしまった。
 トクさんは宴会のためと岩魚を釣ってきていた。流石である。
 無事テン場に着くと自然湖上流再挑戦を誓い合い、「乾杯!」とまだ明るい空に響き渡った。
 明くる日、一番早く起き、火を起こし、コーヒーを入れた。武田さんが家族サービスのため早く帰ることになっていた。昨晩、8時出発を約束したような気がしたからだ。川上さん、トクさんは酒を飲み始めている。武田さんまでも飲み始めている。私もコーヒー焼酎をいただいてしまった。川上さんは10分程寝ては、起きては酒を飲みの繰り返し、時々「ゴー」と豪快に鼾を掻き、呼吸が止まったかのように突然静かになる。帰りの準備を済ませた後、寝ている川上さんに出発を告げる。

ここで一句トクさん、

「大御所も 渓ではただの よっぱらい」

どうにか起こして全員で出発。
 トクさんの後ろに付き、ラッコ泳ぎで下った。楽珍、楽珍。武田さんも時々目をつぶりながら歩いているかも。川上さんはもう遅れだした。城野さんにお任せして先に行かせていただいた。途中、甲羅干しをしながら川上さんを待った。川上さんも甲羅干しをしながらしっかり寝ているらしい。城野さんに声を掛けて群遊会三人は先に車止めまで向かうことにした。
 初日に間違えた対岸登り口を確認して、車止めに到着した。早速、武田さんは家族サービス海水浴へと向かった。1時間後に城野さんが到着。川上さんはゼンマイ道へ上がったらしい。2時間たっても戻らない。迎えに行こうと渓流シューズを履こうとしたとき、川上さんが腕から血を流し、口笛を吹きながら姿を表した。5メートルほど滑落し、胸を強打したと言いますが、
「川上さん、それたぶん罅が入ってますよ。」
 川上さんにとっては「なんのこれしき」でしょうが私には良い教訓になりました。
 川上さん、城野さん、今回の遡行ではじめてお会いしたにもかかわらず、こんなに楽しませていただいて感激です。また必ず、同行させてください。
そして、たくさんのことを勉強させていただきたいと思います。山抜け自然湖クリアーのリベンジもお願いします。
川上さんからは「青木君、あとは経験を積むだけだ」と言われた。多くの森や渓を経験して、多くの先輩方の姿を見て、まだまだ渓のすばらしさを感じたい。
 今回の遡行はきっと私にとって思い出深いものになるでしょう。あの山抜けを目の前にして、「自然には逆らえない」と無言で山が言う。針の先に掛かるほんの一部分を見たに過ぎないが驚くべき光景を見せていただいた。(あおき まさとも)


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