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 釣行記
No.51-1 特集 釣り師が考える環境保護

木川ダムと大規模林道 特別寄稿

新野 祐子(葉山の自然を守る会


 「21世紀の渓流釣りフォーラム」が1997年2月から山形を会場に毎年開かれてきた。山形の渓流釣り場をより良くしていくために、行政、漁協、渓流釣り愛好者が一同に会し話し合う、という画期的な取り組みに興味を持って、私は第1回から討論を聞かせてもらっている。単に興味を持っただけでなく、行政に対して木川ダムの撤去を迫りたいからである。
 96年1月、県企業局は約10年ぶりに木川ダムのゲートを開けた。ゲートの再塗装とパッキングの交換という補修工事のためであるが、その時流出した土砂は少なくとも約6万立法メートル、10トントラックで1万台以上に及んだ。これにより魚や水牲生物の住処が埋め辱くされ、朝日川は渓流釣りの名所から掛け散れたものになってしまった。
 黒部川の出乎ダムの91年から始まった排砂で、ヘドロ状の土砂が一気に流出し、渓流魚だけでなく河口の日本海沿岸に生息する貝敷を死滅させるなど、深刻な漁業被害をもたらしている。
 同年7月、県企業局は水産課、河川課、朝日町、漁協による協議会を設置し、下流に影響のない排秒法について、本格的に取り組むことに決めた。95年、ダムの診断をしたコンサルタント会社から「もともと急峻な地形から来る土砂のため、自然に放流した方がいい」という報告もあり、今後4月から6月の融雪期に1日2回ほどゲートを開けることも検討していた。
 木川ダムから導水する朝日川第1発屯所は、年間収入3億9000万円、支出は3億3000万円で6000万円の黒字にはなっている。しかし、94、95年で6年分以上の利潤に相当する3億7000万円の設備投資を行っている。設置した58年から40年以上が経過し、修繕、改良投資が増大し経費がかさんでいる状況にある。実質赤字ともいえる収支問題に、10年に1度必要という放流の問題を考えると、どこまで必要な発電施設なのか。
 アメリカのエルワー川では、2つのダムの撤去が連邦議会によって許可された。環境保護団体にとって、サケの回復が重要であった。エルワー川に漁場が復活すれば、経済の発展が生まれ、「ダムが撤去され、生態系が回復した稀な自然」ということで、経済的価値がますます高まる、と環境保護団体は『アメリカはなぜダム開発をやめたのか』の中で述べている。アメリカでは数多くのダムを造ってきたが、それを少しずつ壊していく時代が始まっている。
 2000年にドイツのハーノーバー市で万国博覧会が開かれるが、市の中心部を流れるライネ川を出し物のひとつにしているという。川の流れを元に戻したり、堰を迂回する支流をつくったりして、サケの遡る川を復元したライネ川を人々に見てもらいたいと。
 私たち「葉山の自然を守る会」を含む山形県自然保護団体協議会は、96年から年1回の県知事との交渉を行ってきた。毎回木川ダムの撤去を要望しているが、全く考慮されていない。しかし、99年2月に開かれた「渓流釣りフォーラム」での私の質問に対して山田彰一県水産課長は、「木川ダムの撤去については、国民的コンセンサスをつくっていかなければならない。川に魚がいなければ自然ではないので、必要のないダムは壊す、そうなればいいと思っている」と答えている。
 私たちは86年から、大規模林道朝日・小国区間(64・2キロ)の建設阻止に取り組んできた。国民の税金で、葉山のブナ林を破壊し、そこに幅5メートルの山岳観光道路を造るなどという暴挙は、絶対に許せなかったからである。98年12月、国の導入した時のアセスメントにより、朝日・小国区間の中止が決定した。この間、ヌルマタ沢自然環境保全地域の中を、ブナをズクズクに伐って工事が進められてきた。花崗岩の深層風化地帯という非常に崩れやすい地質で、ブナを伐ってしまえば山腹の土砂崩壊は止めようがなく、みなヌルマク沢に流れ込んだ。ヌルマク沢は朝日川の上流であるから、この大量の土砂は朝日川の川床を埋め続け、木川ダムに堆積していった。異常な早さで堆積する土砂を止めるために、県砂防課は木川ダムの上流に7基もの砂防ダム建設を計画している。土砂と大規模林道工事の関連を調査することもなしに、安易に砂防ダムを造るべきではないと、私たちは再三にわたり要請してきた。私たちは、木川ダムの堆妙には大規模林道工事が大きな影響を与えてきたと考えている。
 工事の本音が途絶えた今こそ、砂防ダム建設の計画を白紙に戻し、木川ダムを取り去るべきである。そうすればサクラマスが遡り、イヌワシ、クマタカ、クマゲラなどが飛び交ぅ、遺伝資源保存林にふさわしい川と森が蘇る。そして日本の先頭に立ってムダなダムを撤去した山形県の行政は、世界中の環境保護団体から絶賛されるだろう。(にいの ゆうこ)

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