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 釣行記
朝日山系 末沢川釣行記

清く正しい源流マン講座その2

黒沢 吉直   


 テン場キーパーと釣り師と私

 「うん!?焚き火の向こうに誰かいるぞ!」
 「誰だ?誰だ?あれぇ〜???も・も・もひかひて隊長?」
 「隊長!隊長ったら!何で返事してくんないんスかぁ?」
 「隊長!何でギターなんか持ってんスか?って言うよりどうやって持って来たんスかぁ?」

 無言の隊長はおもむろに黒ブチ眼鏡をかけ、ギターを奏で始めた。そして切なく思いの丈を歌い始めた。

 「お前を渓にぃ〜♪連れてく前にぃ〜♪言っておきたい事があるぅ〜♪」
 「かなりキビシィ〜♪話もするがぁ〜♪俺の本音を〜♪聞いておけぇ〜♪」
 「俺より先にぃ〜♪呑んではイケナイ〜♪」
 「俺よりたくさん〜♪呑んでもイケナイ〜♪」
 「早くツマミはつくれぇ〜♪お湯は切らさず沸かせぇ〜♪出来る範囲でぇ〜♪構わないからぁ〜♪」
 「源流でのぉ〜掟はぁ〜♪厳しぃ〜ケースもあるけどっ♪」
 「美味しいぃ〜♪お酒を〜♪呑むのがぁ〜♪何よりぃ〜♪楽しみぃだからぁ〜♪」

  ・・・・・→間奏→・・・・・→中略→・・・・・
 「俺はルートミスはしないぃ〜♪たぶんしないと思うぅ〜!?♪」
 「しないんじゃないかなぁ〜??♪まちょと覚悟はしておけぇ〜!!!♪」

 →→→→→(+_+)?(*_*)?(T_T)?(>_<)→→→→→
 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ〜!もうたくさんだぁぁぁぁぁぁぁぁ〜!!やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇ〜!!!(私)」

 ・・・・・ようやく目が覚めた!
 全ては愚かな夢物語だったのだ。昨日の決死の下降劇が私には相当のトラウマになっているらしく、夢とも現実ともつかない奇妙な現象を引き起こしたと考えられる。だいたいにしてギター侍じゃあるまいし、ギター担いで渓に入る人間なぞいる訳がない。「悪い冗談に違いない・・・」文字通りの悪夢に貴重な睡眠時間を邪魔された挙句に、私は冷や汗タ〜ラタラで思わずテン場へ踊り出てしまった。
 昨夜あれほど勢いよく燃え盛り、酔っ払いどもを明るく優しく照らしてくれた焚き火・・・今はもうすっかりオキがかすかに残るのみだ。
 え〜っと、現在時刻は間もなくAM5:00になるところ・・・っていうか、ちょっくら早過ぎじゃん!しかしいまさら二度寝できるはずもなく、まだまだ薄暗い空をバックにパタパタフーフーと火熾しに励む羽目になった。イイ感じで火の手が上がってきたところで、目覚めの一杯の為に湯沸しの体勢に入ったのだった。
 30分も経っただろうか、田辺さんが起き出してきた。眠い目をこすりこすり焚き火のそばに寄ってきたが、いかんせん昨夜の乱痴気騒ぎの余韻か、いささかオメメが腫れぼったい。
 しかし一人起き出すと連鎖反応でもあるまいに次々と目を覚ますモノらしく、ガサゴソとテン場は俄然賑やかになってきた。高野さんが起き副長が起き、最後に満を持して隊長が身体を「よっこらしょ」と起こしたところで、お約束のモーニングコーシータイムに突入だ。
 みんな揃って朝っぱらから饒舌という訳にはいかないが、思い思いにゆっくり・まったり・ぐったりとちょっぴりスウィートでアンニュイで甘美な時間を過ごしたのだ。
 そんな中、副長はテキパキと独りで身支度を整え、朝マヅメの一発勝負に出掛けるそうだ。残った面々は口々に「釣り師、釣り師」とはやしたてながらも、早朝の遡行による渡渉を嫌う自分の根性のなさに意気消沈しながら、今釣行一番のアングラーに敬意を表し見送った。
 そんな中、若干一名ほどマグカップの中身が茶色から透明に変わっていた事実が明るみに出た。
 そうとなれば遠慮は無用!高野さんを除く(驚くなかれ、高野さんは下戸だそうです)テン場に根っこが生えた三人は、朝っぱらから背徳の味に喉を潤したのだが、私は杯を傾けながらも酒の肴の用意に忙しい。ふと高野さんを見やれば、何やら液体を負けじとグイグイあおっているではないか。
 よくよく事情聴取してみれば、これがカルピスだそうな。その瞬間に焼酎のカルピス割りを想像したのは私だけではないはずだ!間違いない!!でも高野さんって・・・な〜んか可愛いんじゃねぇ〜と思ってしまった。
 (当方その毛はございませんので、あしからず)快調に帰りのザックの軽量化が進む中、やはり渓道楽コンビは本日帰途に着くと言う。
 しかしながら、とりあえず明日も休みは取ってあるとゆー事で、なんとか引き留めてもう一晩犠牲になって頂こうと懸命の説得を試みるも、敢え無く撃沈というこれ股イケテない回答を頂戴する羽目になった。だって高野さんが家族を愛して愛して愛しちゃってやまないので、帰宅を先延ばしにするのはやぶさかではないっちゅ〜んだもん!かたや田辺さんは一日停滞に色気全開に見えたんスがね。う〜む、愛は縁より強しでんな。背徳の美酒が肝臓を猛ダッシュで駆け巡り、思考回路がマヒする寸前に私は隊長に向かってつぶやいた。
 「依存症の隊長は釣りする時にお手々が震えて、労せずして誘いをかけられてナイスですねぇ〜!」
 すると隊長は間髪入れず、
 「甘いなぁ〜・・・常にプルプルしてる訳じゃねーんだよ。驚くなかれ、一滴でも酒を口にした途端、ピタッと震えが止まっちまうんだなぁ〜これが!」
 私は思わず固まってしまった。いわゆるひとつの絶句とゆーヤツである。どうやら健康とリスクを表裏一体で併せ持つラブリーな人生を送る大酒呑みになると、私のようなお茶を濁す程度の酒呑みには理解し難い、素敵なパラダイス銀河が存在するようだ。よく世間一般では「努力は才能に勝る」と申しますが、それはウソです。確かに努力すればある程度のレベルにまでは参りますが、そこから先の世界を覗く事ができるのはほんの一握りなのです。努力は尊いモノではありますが、天賦の才能を持つ御仁が努力したら到底敵わないのは紛れもない事実です。
 ましてや隊長は、常日頃からの厳しい鍛錬がより一層強固なアル中ハイマーに拍車をかけているのです。向かうところ源流界に敵なし!言うなれば無敵の帝王ですな。隊長の姿が清く正しい源流マンのあるべき姿だとしたら、私はいつまで経っても一人前にはなれないであろう。とりあえず頑張ってはみますけどぉ〜〜〜!
 そんなこんなで刻々と時間は過ぎていき、お二人との別れが近付いてるにも関わらず、私の作るモノといえばツ・マ・ミ・一辺倒。それを見越してか、隊長は昨夜の内にハンゴーゴーダツメシタキジジイのみならず、な〜んと残りメシをおかゆにしていた。「とりあえずあるモノで食ってって!」と高野さんと田辺さんへの気遣いは万全だ。
 やはりこれも経験のなせる技か?私のようなぺーぺーは肝に命じておかなければならない。しかしそこはスパルタ教官の隊長のこと、「こーゆー時、ふりかけあっとイイんだよなぁ〜」・・・・・これもまた教育的指導であった。程よく酔いがまわった頃、私は隊長にお願いを申し上げた。 「隊長!アチキもちょっくら遊んできてイイでっか?」
 厳しい隊長もこの時ばかりは優しい言葉(慈悲の心)を下さった。「イイよ、イイよ、遊んで来なぁ〜。頼むぞっ!40cmオーバー!!ケッケッケッ・・・」分からない・・・隊長の真の姿が。気が変わる前にテン場脱出を試みるのだ!食担軟禁状態からしばしの解放を夢見て念願の末沢川にようやく降り立つ事が出来た。
 副長は今朝方上流に向かったが、私の狙いは下流だ。昨日のなんちゃってテン場捜索で渓相は確認済み、いかにもオイシソーな淵を伴う大石が点在するゴーロ帯の連続で大場所が目白押しだった。「ここで尺上束釣りしちゃったりしちゃったりしてぇ〜」などという妄想に心及び股間を踊らせ竿を出す。
 下る→竿を出す→ピクリともしない→下る→竿を出す→ピクリともしない→下る→エサを変える→竿を出す→ピクリともしない→下る→竿を出す→ピクリともしない→下る→竿を出す→ピクリともしない→下る→エサを変える→竿を出す→ピクリともしない→下る→竿を出す→ピクリともしない→下る→竿を出す→ピクリともしない→下る→竿を出す→ピクリともしない。
 水面はず〜っと沈黙「シ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン・・・・・・・・・・・」さすがにこんな私でも頭にきた。 「バカにしてんのかぁ〜オンドリャァ〜! 」昼メシの献立を気にしながら納竿となり、都合一時間半の暇つぶしになってしまったのだわさ。足取りはヒジョーに重く顔色も思いっきり冴えない。そんな時ある考えが脳裏に浮かんだのだ。「ボーズだからと言って手ぶらで帰る道理は無い!そうだ、薪でも拾って行こう」10秒後、私は抱えきれないほどのブッとい流木を担いで歩いていた。所要15分だか20分で無事テン場に戻った。到着するや否や間髪入れず、皆が口々に「いやぁ〜、すっげぇ〜大物だなぁ〜!三尺は超えてんなぁ〜!」無論、テイクアウトしてきた流木の事である。
 源流マンとは、他人が釣れない事こそ至上の喜びらしい。「ところで、肝心の岩魚はどうだったの?」と、隊長がツッコミを入れてきた。
 私は「いやぁ〜・・・こっちの竿も、こっちのサオもピクリともしませんでしたよ!!」自分の愛竿をかざしながら股ぐらを指差し、満を持してのシモネタオヤヂギャグで応戦してみた。これもいわゆるひとつのお約束である。「きたきたキタァ〜!」期待通りの答えに、隊長は満面の笑みを浮かべ御満悦のようだ。
 かたや釣り師の中の釣り師、末沢岩魚の寝込みを襲って戻ってきていた副長は、目をまんまるにしてまるで虚をつかれたような困惑の表情を浮かべ、「こ、こ、こっちのサオもっスか・・・?」う〜む、いまいち食いつきが悪い!あいにくとお気に召されなかったようだ。まぁ、くだらない与太話は後回しにしてと!早速私は昼メシの準備にとりかかったのだ。
 あっ!そう言えば、副長が釣って隊長が捌いた岩魚の刺身もしっかとイタダキました。岩魚の刺身はいつ食っても絶品。「まいうー」ですな!その後、渓道楽コンビの高野さんと田辺さんがテン場を後にした。


一足先にテン場を後にする渓道楽の高野さんと田辺さん

 三人で半ベソかきながら(超大ウソ)お見送りをし、別れ際に固く握手を交わし、またの再会を約束したのだった。
 うぅ〜ん!アチキったら思いっきりジェントルメンね。その後、朝から自称テン場キーパーを公言していた隊長から思いもよらぬ提案がなされた。「さぁっ!ぼちぼち釣りに行きまっか!」一体どうした事だろう?しかも途中から双手に別れ、魚止めを確認してきなさいという信じ難い指令のおまけ付きだ。願ったり叶ったり、隊長の気が変わらないうちに連れ出してしまえ!とばかりに、昼メシの後片付けもそこそこに釣り道具をサブザックにブチ込み、そそくさと三人はテン場を後にしたのだった。

渓は恋の季節

 副長と私が先行し、隊長がカメラを持って追従するといういつものパターンだ。しばし竿を出さず遡行に専念する。なんせ昨日は渓道楽コンビが、今朝は副長が末沢の精たちを散々っぱら痛め付けた後だ。そうそう簡単に出るはずはない!少し上流に行ってから竿を出しましょうという腹積もりは皆の一致するところ。遡上止メの滝を横目に見ながら、ヘツリで通過しようというその時、副長が淵の底を指差し「いるいる、見えますか?あそこですよ、あ・そ・こ。35cmはありますねぇ〜」と解説を入れる。

本流を釣る黒沢君
本流を釣る向井さん

 なるほど、確かにおりますな。しかし話のネタになっても、間違って釣れる事はないのを確信してるかのように、三人は足早にその場所を通り過ぎた。歩き始めてどの位の時間が経っただろう?そろそろという頃、実にタイミング良く副長が自慢の愛竿を出し、あっちゅ〜間に準備を整え臨戦態勢完了だ。
 慌てて私も用意をして、遅ればせながらスタンバイOKで続いた。副長と私で交互にポイントポイントを探るも、実に反応が鈍い・・・というよりは反応が無いのだ。仕方なくテンポ良くピンポイントで攻めながら釣り上がるも、一向にアタリさえもない体たらく。最後尾でシャッターチャンスをひたすら待ちながらカメラを構える隊長も半ば呆れ顔。しまいには「釣り人はぁ〜、魚を釣ってくださいぃぃぃぃぃぃぃ〜(怒)」とイヤミたらたら・・・(泣)←【大ウソ】
 

 そんなこんなで、写真を諦めた隊長は大立堀沢(たぶん)の魚止めを確認しに行くと言うので、テン場に戻る時間を決めて途中から別行動となった。
 もちろん副長と私にも本流の魚止めの確認を忘れないようにとの注文があったのは言うまでも無い。
 岩魚の気配を全然感じる事の出来ない私は、釣り上がるに従って集中力が切れ、雑になってきた。
 根がかりさせては仕掛けを無くし、頭上の枝に引っ掛けては仕掛けを無くし、お陰でとんだ仕掛け作りトレーニングとなってしまった。(ちなみに昨年で「ウイィ〜ン」のナショナルの手先はめでたく卒業の運びとなりました。今シーズンは頭っから「シコシコシコ」とハンドメイドになりましたとさ。めでたし、めでたし!)
 だんだんとヤケクソ気味になってきた私を尻目に、副長は顔色一つ変えずに末沢本流の流れに挑み続ける。
 やはり腕の差か格の違いか、はたまた踏んだ場数の違いによるものか?ときおり副長の竿がしなる・・・と言ってもリリースサイズなのだが、でもイイですわな!釣れるだけマシですがな。
 それに比べて相変わらず私の竿は沈黙を保ったままだ。思わず「なぁ〜んか、釣れる気が全くしないんですけどぉ〜」と弱音を副長に向かってホザいてしまった。対する副長は「そーですかぁ?こっから上がイイかもしんないじゃないですかぁ〜」と、依然やる気満々、お色気ムンムンだ。
 なるほど、釣果の差は己のモチベーションの差に相違ない事をこの時私は悟ったのだった。ふと時計に視線を移せば、テン場へカムバックの約束リミットである17:00まで残り30分強だ。そろそろ戻らねばならないのはお互い分かっていたが、最後に目の前に現れた左カーブで先の見えない縦長のトロ淵で遊んでから納竿しようという事になった。
 ここまでたった一度もピクリとも来ない私は「釣れるわきゃぁねぇっつーの!」と思いながらも、とりあえずセオリー通りに手前から流してみた。流れに吸い込まれた仕掛けが馴染んだかという瞬間、突然予期せぬ至福の瞬間は訪れた。キタのですよ!うわっはっはっは!ようやく私にも本日最初で最後の会心のアタリが!(歓喜&踊)手ごたえ十分、尺前後か?すかさずアワせて水面まで一気に浮かせてサイズを確認する。「おお〜っ、OK牧場!間違いなく尺上だがやぁ〜!」しばしの攻防の後、ほどなく末沢の精は私の手の内におさまった。
 キレイでグラマラスな魚体とピンシャンなヒレ。まさに渾身の一投による会心の一尾、針を外し思わず見入っていれば何やら騒々しい。私に続いて竿を出した副長にも同サイズの岩魚が掛かったらしい。私は副長にキープすべきかどうか問えば、「尺以上ありますからリリースしましょう」との根がかりルールのお達しを頂いたので、別れを告げ優しく流れに戻してやると、元気に泳いでやがて見えなくなった。
 副長も難なく取り込んでサイズを確認すると、そっとリリースした。もう満足の極みに達している私に向かって、副長が「まだいるかも知れないから竿出してみたら?」と勧めてくれる。私は「最後の最後で最高の釣りが出来、満足いく魚とも出会えて十分だから、是非とも副長が竿出してくださいよ」と逆に勧めたが、協議の結果、喉をカラカラにして隊長が首をなが〜くして待ってるだろうからと納竿してテン場へと急いだ。
 帰り道、副長との話しで思わぬ事実を知った。実は私が岩魚を掛けて取り込む時、一尾の岩魚が追い掛けてきたそうだ。それはおそらく副長が掛けた岩魚だろうと・・・そしてこっちの岩魚は雄、向こうの岩魚は雌とのこと。今更言うまでも無いが、末沢に限らず渓は恋の季節だ。ペアリングを組んでいたのはほぼ間違いないだろう。厳しい冬を幾度となく乗り越え、激しい生存競争にも打ち勝ったいわば末沢川の「勝ち組」だ。
 そんな巡り会い愛し合う二尾を引き裂く権利など、誰であってもある訳がない。人間界でも昔からよく言うではないか、「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ」ってね!まぁ、渓には馬はおりませんのでカモシカか熊がピンチヒッターを務めるということで。すこ〜しだけイイ事したよな気分に浸りました。(魚族保護の観点からも)まるでカモシカの様に軽やかに、熊の様に力強くテン場に向かって突き進む副長の背中を遅れまじ!と追う私。

本流を釣り上がる向井サン
向井さんは、釣れるんです。
本流を釣り上がる筆者


 ふと副長の足が止まった。来る時に35cmの岩魚を現認した遡上止メの滝の上で誰あろう隊長様が一人寂しくテンカラを振っているではないか。聞けば、見えるのだが寄ってきても全然口を使わないので、ついつい意地で粘ってたの事。やはりみ〜んな岩魚釣りが大好きなのだ。すかさずソツがない副長が自分の竿を出し「呂滝スペシャル」なる仕掛けを付け、とどめに私が佃煮用に持参した・・・いやいや!違いまんな。この時期の特A餌として持って来たイナゴを針に刺して隊長に手渡す。
 まんざらでもない笑みを浮かべながら隊長は思いっきり沈める→沈める→沈める→アタリがきたっ!♪→リリースサイズ→当て外れ→狙いは大物→リリースする→イナゴを付け直す→再度沈める→沈める→沈める→またまたアタリがきたっ!☆→一気に抜く→あっけ無く目の前に飛んで来た→またもやリリースサイズ→苦笑い→テン場に戻って酒呑むべぇ〜→納竿となったのだが、釣れないよりは全然マシだと思うのは私だけだろうか?
 一同撤収と相成って、テン場に戻り最後の宴は始まった。再び私はザックの軽量化に挑み、残る食材を使って酒の肴作りにいそしむのだ。猫の手も借りたい程の私は大胆にも隊長にまで調理のサポートを命じた。しかし隊長は具合がヨロシクないらしく、酒を一滴も口にせず調理を終えると寝込んでしまった。
 隊長の体調が優れないなどというブラックジョークは笑えない・・・副長もいつの間にか高イビキだ。みんなの些細な変化、動向に注意を払えない私は、まだまだ一人前の源流マンへの道は程遠いのだと痛切に感じた。
 チビチビと一人寂しく酒を吸い込みながら肴の仕込みを躊躇していると、ほどなくして隊長が復活した。しっぽりソロ宴会を執り行う私を哀れに思い、無理して起き上がってくれたのだろう。私なりに精一杯の気遣いをしながら隊長に酒を、そして肴を勧める。色々と話を聞いて頂いた。仕事の事、家庭の事、悩み、憤り、それも全て一方的にだ。
 隊長からすれば、迷惑この上ない最悪な宴だったはずだ。私的な事をベラベラと、本当に申し訳ありませんでした。(反省)でも、勝手ながら人生の先輩に御教授頂いた事で少し楽になったような気がします。
 そんな最中、副長までもがゾンビの如く復活を遂げたのだ。私のシェフ修行は一段と激しさを増し、それでも今回の山行に参加出来た事を嬉しく思いつつ、呑み、喰らい、喋り、笑い、雄たけびを上げ、しっぽりと夜は更け、とうとう極楽浄土へと旅立ってしまったのだった。
 (あっ!思い出しました。副長はキープした岩魚を焼き枯らしにしてましたな。)嗚呼、「末沢の華は夜開く」さぁ、皆さんで合掌・・・ごっちゃんです!(高見山風)

やり遂げる事で得るモノとは

 「う〜ん、今日もイイ天気だなぁ〜・・・」って呑気な事言って、アンニュイな朝を迎えてるバヤイではなかった。
 昨夜の余韻を大いに引きずり、思わず寝坊してしまった。隊長が所用の為ゆえ本日は早めに撤収するはずだったのが、私がやらかしたせいで蒸気機関車三人組のダイヤに一時間の遅れが生じた。
 慌ててシュラフを蹴飛ばし飛び出した私は、顔も洗わずソッコーで朝メシの支度に取り掛かった。毎度の事ながら、何をクッキングしたか覚えているはずもなく、定かではない。適当に出来るだけ手早く調理し並べ、養豚場の豚のごとくガツガツとかっ食らったはずである。
 そんな時も隊長はカップを片時も離さない。もちろん中身はモーニングコーヒーにコニャックをブレンドした不気味なシロモノである。そのコニャックとは、私の自宅の食器棚に数年寝かせておいたモノで、隠し酒と称して今回持ち込んだ「自称逸品」である。
 しかぁ〜し!そのコニャックがイタダケなかった。普段から洋酒を全くと言っていいほど口にしない私は、コルクが逝ってしまっていたのを別段気にも留めず、そのままペットボトルに移し替えてザックにブチ込んできたのだった。 
 そこですよ!そ・こ・そ・こ!見逃すわきゃあないっスよね、「お酒が一番♪家族は二の次♪何時になぁっても飲み放題ぃ〜♪」(文明堂のカステラのCMでしたっけ?)を地でいく隊長が!目ざとく風味が変わっているのを察知し、私に向かって言い放った。「味がしねぇぞ!(怒)味がしねぇぞ!(怒)(怒)アジがしねぇっつーの!!!(怒)(怒)(怒)オリャァァァァァァァァァ〜ッ(怒り最高潮)私はうなだれ、ただひたすら一心に非礼を詫びるしか術はなかった。
 隊長は「ダメだぁ、こりゃ〜!(いかりや長助風)処分してイイか?」と作り笑いで私に優しく問い掛けてきた。当然私は「お好きになさってたもれ・・・」そう言う他なかった。天寿を全う出来なかった哀れなコニャックは、この世に生を受けた自然と同化して、その短い生涯を終えたのだった。アーメン・・・
 朝メシを終えて撤収の体勢に入るや否や、三人はパッパとタープやらシートやらザイルやらを片付けると、テン場は元の風景を取り戻した。最後にゴミの分別をし、焚き火の始末をした。
 (もちろん隊長が先頭きっておやりになられました)渓のエキスパートがやると、こんなにも痕跡とは消え得るものなのか・・・人臭くなくなるのか・・・と感心する事しきりである。
 私の記憶が正しければ、群遊の誰かがずいぶん前に雑誌へ(K流だったと思う)書いていたように記憶している件を、ふと思い出した。
 その内容とは「渓に残して行くのは足跡と思い出だけ」と言う、短くはあるが、強いメッセージが込められている名台詞だ。
 あの件を目にした時から、群遊会を追いかけて来たのかもしれない。大した役には勃たないが、運良く群遊会への潜入に成功し、一員として渓に立つ事が出来た上に色んな知識や技術や掟などを伝授して頂いてる。諸先輩の一挙手一投足が、渓での私の血となり肉となる。(精神的な面でです)呑み込みが悪くて周囲にフラストレーションを与えるのは必至だが、なんとかすこしづつ自分のモノにして成長していきたいと思う。『我人生一生涯勉強也』公私共に肝に命じておこうと私は考えるのだ。
 テン場クリ−ン大作戦も終わりを迎え、再度各々のザックのパッキングを済ませ、三日間お世話になったテン場に感謝しつつ柴倉沢から踏み跡へと登り始めた。

 まさかいくら急登とはいえ、来た時の思いを考えればラクショーだぜぃ!と、テンポ良くピークを目指す。トップが副長、次は私、最後の保険代わりは隊長だ。しかし!またもやである・・・呼吸は大いに乱れに乱れて荒くなり、汗腺という汗腺からとめどなく汗が噴き出してきた。程度の差こそあれ、やっぱりキツイもんはキツイんじゃ〜い!
 そんな時、鬼のような形相になっているのは自分だけかと思えば、後ろにもいらっしゃいましたよ。しかし隊長は体力不足でキツイ訳ではなく、昨夜の体調不良の影響か、それとも朝酒が満足出来ずに力が湧いてこないのか。
 その内に「ゆ〜っくり行くから先行っててケロ!」と先行を促す。
 「それでは・・・」とか言いながら、ほどほどのスピード&後ろも気にしながらで登っていくのだが、キッチリ1時間イイ汗かかしてもらったのだ。ようやく三人は稜線付近に到着したのだが、ザックを放り投げるなり自分は行き倒れてしまった。どんなルートを通ろうが、運動不足のわが身は関節の油がきれて焼き付く寸前だ。全身を使って呼吸をととのえていると、ときおり吹く風が実に《チョー気持ちイイ〜》(北島康介風、タイムリーなネタで攻めてみました)
 こんな時のクールダウンは、快感のあまり病みつきになりそう・・・ゴロゴロとしている私を尻目に、途中から完全復活を遂げた隊長と冷静沈着の副長は、ウロウロと腰が落ち着かない御様子だ。
 そんなマッタリで贅沢な時間を楽しんでいると、向こうから私を呼ぶ声がする。なんじゃらほいと行ってみれば、そこにはピークを示す目印らしき物体と眼下に広がる壮大なパノラマが存在していた。例え標高が低くても、それはそれなりに素晴らしいし感動もあるわけで・・・
 しばし見とれていると、酩(酊)カメラマンの隊長が写真を撮るから並べと言う。副長と仲良くツーショットで、カメラに向かって精一杯のうすら笑いを浮かべると、もう少し自然な笑顔で!というキビシー注文というかクレームがついた。カメラ慣れしている副長はなんなくモードを切り替えたようだが、私は出来るはずもなく疲労困憊のくたびれたイケテない表情でフィルムにその証拠を残したのだった。
 さぁ!あとはゆっくり下れば終わりだ。元来私は上りが苦手だが、下りはもっと苦手だ。アップダウンのキツイ渓に入って遊んで自宅に戻ると、必ず爪が2〜3枚死んでいる。今回も爪をやっつけるのは必至の情勢なので、お二人に事情を話して私だけマイペースでゆっくり下る事を告げた。実際に下り始めると隊長と副長はたちまち離れていってしまった。とりあえず私は足元のスタンスをしっかりと確保しながら下るも、あっちで「ズルッ!」こっちで「ベタッ!」そっちで「ドスン!」と、すっかり全身泥だらけになりながらも、フラフラとおぼつかない足取りで先行する二人を追った。
 途中二回ほど休憩を入れて、とうとう目指す荒川本流が目の前に現れた。今日の荒川の流れは清く優しい流れだ。流れに身を任せてみたい衝動にかられたが、こんな私にも待っている家族がいる。「帰らなければ!」と荒川本流の渡渉にかかった。天気がイイのも手伝って、水の冷たさが心地よく、ナニから身体の芯まで染み渡る。思わず温泉ヨロシク全身で流れを受けたもんだから、林道に上がった時の様子はまるでヘツリに失敗した○○さんのようだった。
 林道を10分ほど歩く道すがら、やり遂げたという充足感、無事に終える事が出来たという安堵感、そして何よりも隊長と副長のお陰で楽しい(キビシー)三日間を過ごせたという感謝の気持ちに包まれた。決して険谷でもないし、メジャーでもないし、魚影が濃い渓でもないが、今までに経験した事のない甘美な時間であった。
 一番の目的は釣りではあるけれど、それのみに捉われず色々な楽しみ方が出来るのが源流の魅力なのかも知れない。アクシデントもまた楽し!ですな。荒川を跨ぐ橋を一つ越えると、目指すマイカーのもとにようやく辿り着いた。三人は今回の山行の終わりを固い握手で締め括ったのだった。う〜ん!やっぱり源流マンって紳士かもぉ〜???(くろさわ よしなお)