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 釣行記
朝日山系 末沢川釣行記

清く正しい源流マン講座その1

黒沢 吉直   


 「なんとしたモンだぁ〜、この天気はぁ〜・・・」思わず口に出てしまうほど、雲ひとつやふたつはあるものの、大方の予想を裏切る稀に見る好天。時は8月28日の午前7時、場所は小国駅前。所要時間を大きく読み違えた私は、一時間も早く待ち合わせ場所に到着してしまったのだ。
 それにしても、この強風が気になる・・・。おりしも大型で非常に強い台風16号が、九州沖縄地方を暴風域に巻き込みながら、ゆ〜っくりと北上中。それ加えて今回の釣行に参加する為に、新庄から強力な低気圧が南下中。これをチョー絶妙な豪華コラボレーションのリスペクトと言わずして何と表現しようか。
 そーなんス!今回の目的地は大規模林道で揺れた金目川で、探検隊メンバーは武田さん(以下隊長)、そして急遽参加の運びとなった根がかりの向井さん(以下副長)、そしてザックの増量は果たしたものの一向にパワーアップ出来ない私 (奴隷同然)という、猛者とツワモノとヘタレのこれまたビミョーな構図が出来上がりつつあった。日頃からロクな運動という運動もしない怠惰な生活を送っている私にはプチプレッシャーかなぁ〜?少しの不安をデリケートでシャイな胸の奥に忍ばせながらも、ゼッテェー足手まといにはならねぇぞ!と固く心に誓う私であった。
 待ち合わせの8時まではまだ時間があったので、小国駅構内のトイレへ小用を足しに行きながらモーニング缶コーヒーを入手し、車へ戻り某有名元祖源流釣り師の書いた本の概略図のコピーをマジマジと眺め、まだ見ぬ金目川に想いをはせたのだった。間もなく8時の時報が私の意識を現実に引き戻そうかという頃、猛者隊長とツワモノ副長は静かに、そして厳かに且つ時間に正確にその姿を私の前に現したのだった。
 まずはお二人に御挨拶を申し上げると、隊長は挨拶もそこそこにマイトイレットペーパーを片手に駅のトイレに篭城してしまった。仕方が無いので、副長と世間話をしながら隊長が舞い戻って来るのを待った。副長とは面識はあるが、渓に一緒に入るのは初めてだ。我妻会長の当選祝いの宴の時以来だったか、二言三言会話を交わした程度の面識ではあるが・・・。まぁこの際そんなこたぁどうでもヨイのだ。源流のエキスパートとして名高いお二人がガン首揃えてこの場所に介してる、すなわち不肖ワタクシめと渓でくんずほぐれつの上へ下への大騒ぎ状態と言う事。つまり、滅多に無い千載一遇のチャンスな訳ですがな。その真髄を、たっぷりゆっくりじっくり見届けさせてもらうつもりで、今日という日を迎えたのでR.。
 そんな私の勝手な思惑を知る由もないはずだが、事前に隊長は私に対してトンデモナイ課題を突き付けたのであった。「それは何じゃらほい?」と問えば、「コンカイノサンコウニオイテハ、ショクタンヲヤルヨウニ!」ですってよ。私は「ドッヒャァ〜〜〜〜!!!」ってな感じでうろたえて、童謡を口ずさみ・・・って何でやねん!ちがう、チガウ、違いまっさ。動揺を隠さずにはいられなかったのだが、隊長の「何事も経験だから」と言うセリフに見事反論の機会を見出す事も叶わず、あっさり斬り捨て御免と相成った次第である。
 そんな経緯を踏まえて、私は寝ても覚めても食っても呑んでも、挙句の果てに我が家のTOTOの便器に跨っている時でさえ2泊3日のレシピの事で頭が一杯になってしまい、「今回の山行で隊長と副長のマル秘テクを盗んで自分のモノにしちまおう」などと言う不埒な考えは、はるか彼方へぶっ飛んでしまったのだった。
 全然偉くも無い自慢ですが、ワタクシ時間が無い事にカコつけて自宅では殆ど料理は致しません。常に「女房→作る人、私→食べる人」こんな按配ですから・・・しかも渓では現地調達の食材を見分ける事が出来ないちゅ〜おまけ付き。特に渓での生活には欠かせないキノコ類に関しても、シイタケとシメジとナメコとキクラゲくらいしか判別出来ない体たらくなのである。現地での食材確保に不安があるのはもちろんだが、併せて明日以降の空模様にも赤信号が点る寸前であった。
 なにせ荒天の実績に於いては輝かしい歴史を持つ隊長がナビゲーターをお努めになる今日からの三日間。荒れない訳がないぢゃあ〜りませんか!この時点での好天は嵐の前ぶれと言おうか、崇りの前の静けさと言うか・・・兎にも角にも今回の山行における食に関する全権委任を仰せつかった私は、足りない脳味噌で考え抜いた日々の献立に沿って食材を用意し担ぎ上げる事にしたのだった。
 おっとととのおっとっと、前振りが長過ぎィィィ〜。
 ちなみに朝っぱらから小国駅構内のトイレを不法占拠し、立てこもり及び勃てモッコリ状態だった隊長は、朝も早よから踏ん張った甲斐あって実に清清しく神々しい、まるで布袋様のような柔和で不敵な笑みを浮かべながら車へとお戻りになられた事を付け加えておく。

予定と現実の狭間で

 メンツが揃ったところで、副長がハンドルを握り隊長がナビを務める隊長号と私のへタレ号は、ランデヴーをキメて一路車止メを目指した。それにしても速い!はやい!ハヤイ!副長のトバすことトバすこと・・・一瞬でも気を緩めれば、たちまち遥か彼方の塵の如く見えなくなってしまいそうだ。F1パイロットよろしく必死に食い下がり、テールツゥノーズで追い掛ける私がいた。五味沢を過ぎ徳網の辺りだったと思うが、隊長号は道路の本筋からビミョーに二股になっている箇所を右折し、林道目指してまっしぐら・・・のはずだった。小さな橋を渡った所で、私達は信じられないモノ、いやっ!信じたくないモノを目の当たりにした。一体それは何?って・・・ゲートですよゲ・エ・ト!林道のゲートがバッチリガッチリ閉まってやがって、御丁寧にもモノゴッツイ南京錠までついてますがな。なになに、な〜んか書いてありまんな。「林道崩壊の為、通行止メ」ですってぇ〜?っつーか、なんでやねん!なんでやねん!!なんでやね〜ん!!!
 この時点で時刻は既に9:00近い。誰一人として口には出さないものの、スタート早々からケチがついた事で、気持ちは萎えてしまったのはアリアリだ。あくまで基本線は金目川であるが、問題は入渓ルートだ。隊長の思い描いていた「なるべく楽して早めにテンバって呑んで食って快適源流生活でナイスですねぇ〜」は、モロくはかなく雪渓が崩壊するが如く華やかに音を立てて崩れ去ったのだ。
 隊長と副長が地図を引っ張り出し、あーでもないこーでもないと活発なディスカッションする傍で、地図を持参しなかった私は、亡霊かはたまた子泣きジジイのようにたたずむ他なかった。暫しの戦略会議の後、橋の手前の民家沿いにある田んぼ道が行けそうだと言う結論に達し、早速意気揚々と車に乗り込み走り出した・・・と思ったら、ものの1分もしないうちにジ・エンド。
 トラロープが張ってあり、何やら札らしきモノが付いている。「崩落の為に通行止メ」・・・ゲロゲロ!(>o<)なんぢゃぁ、こりゃぁぁぁぁぁぁ〜!(松田優作風)渓に入る前から進退窮まってしまった。仕方なくゲートの前に戻り、冴えない顔した三人組は改めて仕切り直しとなったのだった。利便性の追求がもたらした産物はその弱点を露呈し、到底自然の驚異には抗えないのだと言うことを改めて思い知らされる。
 もしもの仮定の話ではあるが、ここを起点としたならば、渓まで最低3時間(アスファルト歩き含む)のアルバイトは要するとの事。容赦無く刻々と時間は過ぎ去るも相変わらず結論は出るはずもない。隊長は一応副長と私に意見を求めてきた。副長は場所を変えようかなどと言うオッソロシィ〜くも無謀に近い代替案を出してきた。それも三面の竹ノ沢とか岩井又とか言うんスよ。「本格源流初心者のアチキが行けるわきゃねぇ〜だろっつーの!つーかオイラを殺す気かぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜(泣)」私は三面だけは避けなければという一心で必死に抵抗を試み、三面以外だったらどこでもイイ事を隊長に告げた。
 そんな時、一台の軽トラがゲートの前で止まった。お相撲さんの高見盛をミニチュア化したようなお百姓さんのオヂサンが降りてきた。常に腰の低い隊長は人懐っこい笑顔を浮かべてオヂサンに近付きコンタクトを試みた。 オヂサンは気さくに色々と親身に話を聞き、且つ丁寧に答えてくれた。(山形弁がキツく、私には解読不能な部分もあった)私が何とか理解し得た範囲で説明すれば、おおよそ話の内容はこうだった・・・と思う。

<<二週間くれぇ前に山形は強い雨っこ降ってよぉ〜、その影響で林道は途中崩壊すてすまったのよ。小国町は予算が無ぇってんで、復旧作業についでは未定・・・っつーが、おそらぐ今年は手ェつけねぇべなぁ〜っつー大方の見通しらすぃでよ。金目に入んだらば他のルートはどうだっぺ?オラも若い頃はよくザッコ釣りしたもんだ。オラが察するに、ここ二〜三日の水は少なぐで澄んでいで釣りにはなんねんでねぇのが?そう言えばよぉ〜、この間は福島ナンバーの車がゲートのカギさブッ壊して入って行ったっけなぁ〜。(福島県人総悪者状態、絶句&絶句・・・)んだんだ!なんならウヂさ車置いでげ。車イダズラしらっちゃら大変だべ。小国にも車上荒らし出でよぉ〜、もう捕まったげんちょな。>>

 若干表現に違いはあるものの、大体こんな具合であったはずだ。農業を生業とするプチ高見盛は、朝から酒呑んでる訳でもあるまいに、実に饒舌だ。しかし見ず知らずの人間の車を案じ、なおかつ自宅の敷地を三日間もの間、駐車場代わりに提供しようとは・・・オヂサンの心底温かい人柄が窺えるのは言うまでもない。
 これもひとえに相対した隊長の人徳の成せるワザか?すっかり隊長の多彩な話術に乗っかってしまい、ついつい口が滑ってしまった感が無きにしもあらずだが、オヂサンの名誉の為に余計な詮索はしてはいけない事を本能的に私は察知した。
 (そう言えば高見盛似のオヂサンは「マイネームイズ齋藤」と自らゲロしてましたな。齋藤さん!あの節は格別な御厚情を賜りまして誠にありがとうございました)
 しばし談笑を楽しんだ後、別れの挨拶を交わすとオヂサンはゲートの南京錠を外し、その先にあるマイ田んぼだかマイ畑だかへオヂサン号(軽トラ)で旅立って行ったのだった。もちろん開けたゲートはキッチリ閉めて行かれましたです、ハイ!そんな訳で、とりあえず大雑把な情報は入手完了した。いよいよ決断の時である。一向に結論が出ない事に業を煮やした隊長は、甘くオイシイ魅力的な言葉で副長と私にコマセ攻撃を仕掛けてきた。
 「テン場まで一時間半!末沢、末沢川はイカガっスかぁ〜?」う〜ん、魂を激しく揺さぶるイイ響きだ。もともと渓のチョイスは隊長に丸投げした私、異論などあろうはずがない。副長も末沢川には入った事が無いそうで、首を横に振る理由はどこにも見つからない。(うなずきトリオ揃い踏み)ついでに提案者である隊長さえも未入渓だそうだ。そんなオールキャスト末沢川ヴァージン状態であっても、不安や心配などという文字は三人の辞書には無かったはずだ。(渓の神様はイヂワルね、シクシク・・・)だってキチンと読図して所要時間を算出してるに決まってるじゃないっスか。あらかじめお断りしときますが、ワタクシ読図は全く出来ません。(自爆!○道楽風)それにもしもの大一番で足手まといになるのが明白な私の実力を隊長は知っとるさかいに、自分に不幸が舞い降りてくるような無謀な選択はしないはず。
 それにそれになんてったって渓のスペシャリスト二人が揃ってるじゃんか!隊長と副長のリードに御身を捧げ、私はな〜んも心配する事なく、尚且つ体力を無駄に消費する事なく、一時間半の工程を終えた後のツマミを作る事だけに集中すればイイのだ。三人の思惑がようやく一致をみた所で、皆さん御唱和下さい。せーの!「(三人の)おぉ〜もいぃ〜がかぁさなぁ〜るそ〜のま〜えにぃ〜♪つよくぅ〜てをにぃぎぃろぉぉぉぉ〜♪♪」(by平井堅風に)しもうた!墓穴を掘ってしまいましたがな。遡行ならともかく、シラフで♂同士が手をニギニギはイタダケませんな。おそろしや、おそろしや・・・ナンマンダブ、ナンマンダブ・・・合掌。そして一行は仕切り直しよろしく、荒川本流の車止めである針生平付近を目指して再出発と相成った訳である。  

油断大敵、危険が一杯

 針生平より少し手前の駐車スペースに車を止めた。ちょうど二台分の広さで、なかなかGoodなロケーションだ。ここから少々戻り、林道沿いにある作業小屋?らしき建物の裏に流れるションベン沢を詰め上がる予定だそうだ。(以前、副長が荒川詣でした時に偵察済み)まだ見ぬ末沢川に心も股間も躍らせながら、おのおのが「それでわ・・・」と着替えを始め、身支度が整うと肝心のパッキングに取り掛かった。
 しかしその時点で今年新調した私の80リッターザックが、既に腹八分目になっていた事を隊長&副長は知る由もなかろう。元々私はパッキング下手には絶大なる自信がある。心配性というか、小心者というか、他人様から見れば「そこまでは要らないんじゃねぇ〜?」と言う様なモノまでザックにブチ込んでしまう悪癖があるのだ。今回それに加えて厄介なのは、山のような食材と命の水(酒の事です)の量であるのはほぼ間違いない。とりあえず三日間の酒は全て私のザックに納まっている。酒をはじめとする全ての液体類を重量換算すれば10kgは超えている。それに個人装備と食材を加えれば・・・想像しただけでもお先真っ暗!風邪っぴきでもないのに寒気と頭痛すら覚える。ならば共同装備は入らないなぁ〜・・・というよりも、私のザックは当に実力の許容量を超えてカラータイマーが点滅している為、さっさと自分のパッキングを済ませ、入り切らなかった食材(スーパーの袋三個)を無言で隊長と副長の前に差し出した。
 するとお二人は嫌な顔一つせず黙々とザックへと詰めし込み、結果的には私よりもパッと見、担ぐ冷蔵庫状態になってしまった。(重ね重ね申し訳ありません)もちろんワタクシだけが楽してる訳では決して無い。「なんちゅ〜この重さ!未だかつて経験した事の無い、例えれば異次元の領域へ踏み込んでしまったような感覚を覚える」### まぁ〜そんなこんなの紆余曲折を経て、末沢川釣行はスタートしたのだった。
 この時すでに時計は11時を指していた。当初の計画通りに小屋の後ろから沢へと下り、沢通しで10分ほど遡行を続けると、めざとい誰かさん(筆者記憶喪失ゆえ不明)は踏み跡を発見したのだ。「結構しっかり踏み跡ついてますね」と副長がつぶやきながら栄光のトップを務め、続いて要注意人物の私、ケツ持ちは実力者の隊長という布陣で登り始めた。一年ぶりの渓泊まりに心はウキウキウッキッキー調で、ちょっぴり最初は鼻歌交じりのルンルン気分だった。(いまどきルンルンなんて使わねぇ〜つーの!)ついでに背中から猛プレッシャーをかけるザックがなければ、この上なくどんなに超ハッピーでマンモスウレピー事か。いやいや、男たるもの弱音は吐くまい・・・と思ったつもりが、歩を進めるうちにだんだんと呼吸は乱れ、自分の顔が世にも恐ろしや般若の面状態になっていくのが分かる。だってだってあ〜た、これがキツいのなんのって!あの踏み跡ったら最初はダラダラに見せかけておいて、なんてったってイキナリ急登ですよ、急登!おっかなびっくり上を見やれば、空に向かって直角に道が続いてるようにしか見えない。「このまま登って行ったら雲の上に出ちゃったりして・・・ジャックと豆の木みたいに・・・」な〜んて、ありえもしない非現実的な妄想をしてみたりと、すでに私の精神状態はまともではないらしい。 おまけに少しでも気を抜こうモンならスタンスの選択を誤り足は滑らすし、足元がおぼつかないので手の届く範囲の木の枝でも草付きでも、とにかくつかめるものは藁にもすがる思いで何でもつかんで懸命のホールド確保をしながら副長の背中を追ったんスよ。

 (全然関係ありませんが、ある御仁がトイレにて大キジをブッ放した後にトイレットペーパーが無いのに気付いて途方にくれ、ふと前方の壁に視線を移すと、な〜んとそこには「紙に見放されし時、我が手でウンをつかめ!」と書いてあったそうです。世の中にはウマイ文句考えなさるお方もおるようです。)

山越え前の小沢で筆者
副隊長の向井さん

 常日頃の不摂生のツケか、はたまた運動不足のたまものか、イヤ〜な汗がダラダラと衣服の中を流れ落ちるのが実にキモい!!!まだスタートして間もないばかりかテン場にさえも着いてないのに、ヘタ打って足手まといになったり、つかんでた草がひっこ抜け足を滑らせ、まさかまさかの人間木流し状態になって「ふりだしにも・ど・る☆ウフッ」なんて・・・イヤですがな、そんなん。その一心だけで喘ぎながらも歯を食いしばり、ガ○ン汁タラタラモードを周囲に悟られぬよう、「あと少し、もう少し」と自分自身を鼓舞しながら一歩、また一歩・・・と、その時だった。「一服入れましょうか」と副長のありがたいお言葉。きっといっぱいいっぱいの私を見かねて、お二人がアイコンタクトを駆使し、断腸の思いで休憩を決めたに違いない。各々がザックの重荷から解放され、僅かなスペースに腰を下ろし、しばしの休息を堪能した。しかしこんな時でさえ、仕草ひとつとっても隊長と副長はエキスパートたる臭い、いやいや匂いを漂わせている。違いの分かるコーヒー好きの男達、ネスカフェ*ゴールドボール*隊とでも、こそっと名付けておこう。(オールドボーイズでもイケますな)読図のプロヘッショナルである副長によれば、下界から稜線までの標高差およそ300mだそうな。そして稜線までは残り半分くらいとの事。へっ!所要時間30分でたった150mですか?この時点で隊長の誘い文句であった「テン場まで一時間半!」というのが到底叶わぬ夢物語だという事くらい、最近脳ミソ溶けぎみのイカレポンチのオイラにだって分かるわい!おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 


山越えルートの尾根に取り付く
山越えした支流の沢

冷や汗とともに未だ止まらぬ汗を手拭いで拭き取り、水分補給を終えて再び立ち上がったのだ。一歩踏み出す毎に背中のザックは重さを増すような感覚を覚え、それでも行かなければ!やり遂げなければ!そんな使命感のようなものに後押しされ、ぐんぐん雲が近付いてくるような錯覚にとらわれながらも、ひたすら稜線目指して登ったのだ。
 ときおり上を見やり、青々と生い茂る木々の間から覗く空を見ては分かるはずも無い距離を測ったり、時計で経過時間を何度も確認したりしては気を紛らわせた。相変わらずとめどなく汗は出るが、口からは得意のオヤヂギャグも出ない。延々とこの時間が続くような気がした・・・が、渓の神は我らを見捨てなかった。(大袈裟すぎだっつーの)とうとう来たのだ!至福の瞬間が♪(*^・^)⌒☆・・・と言っても、ようやく登り終えただけの事。
 残りは下りを残すのみだが、登りに一時間を要した事から察しても、ゆっくり一時間かけて下ればイイだけの事だ。な〜んだ、余裕のよっちゃんイカぢゃ〜ん!そんな訳で時間も時間なので(ちょうど12時を回った頃)ランチタイムと相成った次第である。私は車での移動中に遅い朝メシを食ったからか、あいにく腹は減ってない。
 おにぎりは持参してきたのだが、まぁすぐに傷むモノでもないので、とりあえずザックを枕にゴロ寝を決め込む。「食える時に食っとかねぇともたねぇぞ」と隊長からアドバイスを頂く。
 私とは対照的に隊長と副長は旺盛な食欲がアンビリーバボー!!!やはり超人的な体力の源はシャリにあったのか・・・源流マンの真髄を垣間見たような気がした。
 いや、ちょっと待てよ・・・隊長はテン場ではほとんどメシの類を口にせず、多種多様な酒とつまみのみで生き長らえていたような気がしたのだが・・・あっ、そっかぁ〜。酒は大多数が穀物から出来てんだもん。固形物が液体に姿を変えただけの事、いわゆるひとつの流動食みたいなモンさね。なるほど納得、めでたし、めでたし、これでEのだ。そんな時でも副長は地図を片時も離さず、食事中も読図を欠かさない。やはりこのぐらい用意周到でなければ、一般に険谷と呼ばれるような渓には分け入る資格はないのであろう。もちろん実力が伴う事が大前提ではあるが。見習う所は大いに見習わなければ・・・昼メシを手早く済ませた副長は、踏み跡のチェックに出掛けた。実に精力的に動かれるお人だ。頭が下がる思いを今宵の宴に託し、是非とも全力投球でお返ししなければ!ほどなくして副長が指で岡本理研マークをこさえて戻って来た。それに呼応するかのように、ナイスレスポンスで「早くテン場に着き隊」は、再び歩み始めたのだ。なぜか今度は私がトップで踏み跡を辿る。内心「なんでオイラがトップを・・・?」と言う疑問は大いに生じていたのだが、「まぁ〜踏み跡追っかけるだけだしぃ〜、下りは意外にキツイから、自分のペースで歩かせてもらうとすっか!」とお気楽の脳天気に構えていた。
 しかし渓の神様は突然の試練を三人に与えられたのだ。「あれぇ〜?あれぇ〜?あんれぇぇぇぇぇぇ〜???????」と焦る私。すかさず間髪入れずに「隊長!ふ、ふ、踏み跡が消えましたであります!!」と報告する私。
 あれほどしっかりキッチリついていた踏み跡は忽然と消え、すっかり草木が生い茂るガサヤブが目の前にあった。まさに空いた口が塞がらないとはこの事だ。三人で顔を見合わせるも、副長の「とりあえず行けるトコまで行ってみましょう」の声と同時にまた歩き出す。さながら重戦車のごとく草を踏みつけ、木々をなぎ倒し(イメージです、念のため)蒸気機関車のように頭頂部から湯気を発しながらも力強く、三両編成のローカル線は道無き道を開拓するかのように突き進むったら突き進むのよ。それでも良かった、最初のうちは・・・。やがて渓の傾斜はどんどんキツくなり、ほとんど絶壁に近い状態になり、いよいよ進退窮まってしまった。いまさら戻るに戻れないし、それでは一服しましょとばかりに各々が恐ろしい場所で恐ろしい体勢で、思い思いの補給をしながら作戦会議が始まる。隊長と副長が冷静に現在地を把握し、下降ルートの選択を協議している傍で私は「とにかく滑落とかして迷惑かけないようにだけしなくちゃ」、「でもここ下降すんのは尋常じゃねぇよなぁ・・・」、「万が一落ちたら・・・もちろん即死だよなぁ」とか色んな妄想が走馬灯のように頭の中を駆け巡り、弱気に一掃拍車がかかり、当然話を聞くのも上の空であったのは間違いない。ボーッとしていたらいつの間にか協議も済んで、隊長がザックを担ぎ今回初のトップを務めて、難所の攻略に入った。続いて私、しんがりは副長が務める。とりあえず一つの尾根沿いに下降を試みる。ときおりヤブをこぎながら、豪雪のせいか天に向かって伸びる事を諦めた木々を乗り越え、跨ぎ、時に潜り抜け、手当たり次第つかめるものは何でもホールドにしターザン状態で慎重に下降する。進退窮まると隣の尾根へとトラバースして、また同じ事の繰り返し。何回・・・いや、何十回そんな事を繰り返しただろう。隊長はトップを務めながら最も安全なルートを開拓し導いてくれる。いや、そればかりか私の顔色を常に窺い目を配り、万が一にもあってはならない事を未然に防いでくれている。渓におけるリーダーの役割とは、とてつもない重責なのだというのが分かった。
 そんな隊長が「もう握力がねぇよ!」とのたまったのだ。無理もない、下り始めてから殆どずっと懸垂下降してるような状態だもの。私なんかあまりにも必死過ぎて限界メーターのレッドゾーンぶっチギリで、握力が無くなってる事さえ気付いていませんでしたのよ、オホホのホ。とてつもなく時間が経ったような気がした時、眼下に目指す柴倉沢を発見したのだ。
 耳を澄ませば水の流れる音までが聞こえてくるではないか。どこに残っていたのか、俄然身体中に力が湧いてくる。そんな時、隊長が「安心して気ィ抜いた時に事故起きんだから、最後が肝心だかんな!」とのお言葉。まるで私の心は見透かされているようだ。ついでに隊長は「石落とした時はおっきな声で「ラーク!」って言うんだかんな!」と教育的指導その1。
 もちろん私はすかさず「ハーイ!」また一つお利口さんに近付いた私でした。目標とする柴倉沢へ無事に降り立つんだという一心で、最後のツメは朦朧になりながらも慎重に慎重を期して隊長の誘導に忠実に従い、約二時間半強〜三時間弱を要して本日の下降訓練は終了を迎えた事を御報告申し上げる。(誰によ?)しかし不覚にも石を一個落としてしまい、幸か不幸か「ラーク」なる言葉を早々に実戦にて発射してしまった事も補足しておく。

縁は奇なモノ、オツなモノ

 命あってのモノダネ、命からがらジャングルを脱し、柴倉沢へと降り立った三人は渓水で顔を洗い喉を潤し、しばし火照った身体をクールダウンさせた。相変わらずこんな時でも隊長と副長は地図とにらめっこを欠かさない。油断していた間隙を縫う様に教育的指導その2が飛んだのはその時だった。「渓に入る時は地図を忘れない事!基本だかんな!き・ほ・ん!」隊長の有難き温かい教えでした。ジカイカラハコクドチリインセイノ、ニマンゴセンブンノイチノチケイズハカナラズジサンイタシマフ。(一応反省)さぁ〜て、体力気力ともに復活したところで、本日の行動予定ラストスパートに参りましょうと皆が腰を上げ歩き出すと、先頭にいた副長がしきりに下を気にしている。砂地に残る足跡を指差し「先に誰かここ歩きましたか?」と、私と隊長に問い掛ける。「い〜んや、歩ってないよ」と二人揃って答えれば、しばし沈黙タイムに突入してしまった。
 三人の考えている内容が一緒なのは間違いない。明らかに先行者の痕跡であるのは疑いようのない事実だ。しかしだ!それほどメジャーでもない渓である事に加え、先ほどの下降における苦労を考えると、「よりによって何で・・・」と、やりきれない思いが私を包む。それでも進まなければならない悲しい現実。本流の出合に向かって進もうとすれば、見知らぬ誰かさんの足跡からすぐ先に、赤い目印のビニールテープとおぼしきモノが風に揺られていた。それはもちろん正規ルートの踏み跡を示す幸せの赤い目印に他ならなかった。状況が状況だけに、赤いテープは私達三人に向かって「ココヨ!ココダッタラ〜ン。モー、コノスットコドッコイ!」と手招きしてるように見えた。三人で正規ルートへの入り口をまじまじと見つめ、帰りは必ずここを帰ろうと固く心に誓ったのだ。
 そしてまたもや仕切り直しで歩き始めると、私達の不安は確信に変わったのだ。何故かって?だってね、ほんの50m先に見えるんスよ。な〜んか薄緑色した布切れが空中に舞っているのが・・・あれって、もしかしなくてもアレですよね・・・?その物体は柴倉沢と末沢本流の出合の三角コーナーにザイルと張り紐によって固定され、既に快適なテン場を形成していた。一般的にその物体はタープと呼ばれているはずである。って言うかぁ〜、先行者のみならずテン場もしっかり先にキープされてりゃ、もうダメじゃん!それぞれ口にこそしないが、三人のモチベーションがガタ落ちしたのは火を見るより明らかである。とりあえずため息混じりの胸騒ぎの腰つきで、大まかなテン場のガサ入れにとりかかる。
 しかしあくまでもよそ様の所有物である。手を触れずにザックの数、荷物の量、冷やしてある酒の量などで人数や宿泊日数を妄想する。隊長が「酒の量から察すると一泊じゃねぇかなぁ?」と推測した。そんな時、副長がスンバらしい洞察力で、タープの収納袋から大きな発見をしたのだ。な〜んと「渓道楽って書いてありますよ」と言うではないか。それを聞いた隊長は「な〜んだ、身内かぁ〜」と、拍子抜けした様子。私も「どれどれ?」と覗いてみれば、なるへそクッキリハッキリ「渓道楽」の文字が!じゃあ誰が来てんのよ?と言葉を発する前に、副長は「二人組で、一人は高野さんですね」と答える。なんでもマグカップに名前が記してあったそうな。
 唯一副長だけは面識があるようだ。隊長は「渓道楽のホームページの管理人さんだよな?」と言う。いわゆる渓流界のIT集団の異名をとる集団、その頭脳にあたる御仁なのだと私は理解した。それよりも何よりも、とにかく余計な詮索は後回しにして、時間も時間なので本日の予定を決めなければならない。
 幸か不幸か、全く知らない間柄でもない。隊長的に表現すれば「この先ナイスなテン場がある確証は無いし、出来れば御一緒させて頂ければ理想だ」とのお言葉。一刻を争う大事なこの時に、真っ先に腰を上げたのは副長だった。「僕が追いかけてみます。そろそろ戻り足だろうし、ついでに万が一に備えて他に良いテン場が無いかどうかも見て来ます」と言うが早いか、カモシカのように姿を消してしまった。副長が渓道楽のメンバーとコンタクトを取りに行ってる間、隊長と私は一服したり、焚き付けにする薪と呼ぶには程遠い小枝を少々集めたり、あまりの手持ち無沙汰さに存在するはずもないニューテン場を下流へと探しに行ってみたりと、暇潰しに躍起となっていた。30分以上は経ったと思うが、副長が渓道楽のお二人と共に帰って・・・来なかった。遡上止メらしき所まで行ったのだが、一向に戻って来る気配が無く、仕方なく単独帰還となってしまったとの事、ガチョ〜〜〜ン!!!
 しかし途中にそこそこイケてるテン場を発見したとの情報も欠かさない。さすが副長!抜け目がないというか、ソツがないというか、実に無駄がなく合理的だ。ウ〜ム、恐るべし根がかりクラブ!哀れにもアテが外れた三人はソッコーで協議を済ませ、勝手にMyテン場を設営する訳にもいかないという結論に達し、くたびれはてた身体にムチ打つように我が身を再度奮い立たせ、おんぶ式冷蔵庫を担いで移動を開始したのだった。(別名取り越し苦労のくたびれもうけ&民族大移動)末沢本流に降り立ち、透き通るような流れを歩き、三人はまだ見ぬGoodなテン場へと向かう・・・・・・・・はずだったが、渓の神様はとりわけイタズラがお好きらしい。
 今日という日は何度どんでん返しがくれば終わりなのか予想が出来ない。えっ!?なんのこっちゃって???来たんですよ、来たんですよ、待ち焦がれていた愛しの渓道楽御一行様が!出合のテン場から歩き出してものの2〜3分、前方から悠々と釣果を携えて猛者二人が歩いて来るではないのさ。お互いの距離が縮まるに従って、その全貌が今まさに白日の下に晒されようとしているのだ。
 顔を見合わせるなり「あれぇ〜・・・!?」もちろん高野さんは初対面なのだが、懸念されていた相棒とは誰あろう田辺さんだったのだ。田辺さんと言えば、昨年の清掃山行のテン場で同じく渓道楽の松井さんと神戸牛のしゃぶしゃぶを皆に振舞った豪傑だ。お味の方は私ごときが語るのもおこがましいほどのジューシーでデリーシャスでゴージャスでやんしたが、そのしゃぶぅ〜しゃぶぅ〜した鍋(寸銅鍋ってんですか?あーゆーの?)に度肝を抜かれた記憶が蘇る。
 もちろん隊長と副長に関しては、関わり愛が深いのは言うまでも無い。それぞれが再会を喜び、また偶然の出会いに驚き、軽く名乗りながら握手で御挨拶だ。いつも感じる事ではあるが、源流マンとはとても礼儀正しく紳士的だと思う。そこで田辺さんが失礼極まりない暴言を浴びせ倒したのだ。「このザックの大きさを目の当たりにした時、普通の人間では無いと思いましたよ」ですってよ!ヒドイわ、ヒドイわ、アチキはただの通りすがりの釣り好きのオヤヂなのヨ。
 しかぁ〜し!隊長&副長はとうに人間の域を超えてますがね。与太話もそこそこに隊長が早速切り出した。「もしよろしかったら、テン場ご一緒させて頂けませんでしょうか?」高野さんも田辺さんも決して躊躇する事なく即答だった。(サインはヴィ?もちろんオカモトのOKサインに決まってますがな!)二つのパーティーは互いにリスペクトし、コラボレーションする運びとなっちまったのだった。(敢えてどちらが不幸かと問えば、高野さんと田辺さんが偶然犬のウ○チ踏んだ位に不幸の出会いだったと思う)五人はテン場に戻り、タープを二枚掛けにするべく張り直し、改めてシートも敷き直し、高野さんと田辺さんは泣く泣く私達の宴会に強制合流させられたのだ。宴会の準備に掛かろうとする私に隊長から教育的指導その3が飛んだ。「テン場に着いてまずする事は?」「ハイッ!酒を冷やす事であります!」「ほんならさっさとかからんかぁ〜い!ワレェ〜(怒)」って、こんな調子で事は進んでいった。まずは乾杯で喉を潤し、とりあえず酒の肴が出来るまで乾き物にてお茶を

渓道楽の高野さんと田辺さんと。。

濁す。もちろん食担の私がシコシコ肴を仕込むのは言うまでも無い。
 しかしだ、要領が悪いのはいかんともし難い。見かねた隊長がチクリチクリと教育的指導その4。「酒の肴はサッと手早く切れ目なく出さんか〜い!コラァ〜ッ!」もうオイラは半ベソ・・・ウエェェェ〜ン!(大ウソ)とりあえず考え抜いたレシピの中から、これでもか、これでもかと全身全霊を傾け調理に没頭する私に隊長が一言、「食担っつーのは食の全権把握であって、決して全ての調理をしなければならないという訳ではないんだぞ!手の空いてる人間に手伝わせる権限も兼ね備えてるんだかんな!」早くも教育的指導はその5を数えた。
 労せずして隊長に脳味噌のシワを増やしてもらった私は、さっそく強権発動だ。(狂犬発情ではない)事もあろうに、副長にテンプラを揚げるように命じたのだ。「う〜ん、もしかして食担って思ってたより楽かもぉ〜☆」この時点でも、原稿を書いてる現在でも記憶はおぼろげというより、見事に抜け落ちました。よって酒の肴、何を作ったのかはロッキード事件の被告状態です。かすかに覚えてるのは、宴会は大いにモッコリ盛り上がった事と、日頃の睡眠不足を解消しに来ているワタクシ、早々に撃沈していた高野さんの隣に添い寝した事くらいかなぁ〜。(ちなみに隊長は高野さんの炊いていたハンゴーを強奪し、飯炊きを楽しんでいた。高野さんは岩魚を焼いてたような気もする。) 末沢の夜はまだまだ眠らないのだ・・・オソロシヤ〜オソロシヤ〜

メチャクチャ長い文章なので、その2に続く。