釣行記 | トップページ
釣行記
釣り師が考える環境保護

既存の砂防ダムのスリット化を求めて

我 妻 徳 雄  


 山の崩落、侵食は重力場におけるポテンシャルエネルギーの放出です。つまり防ぐことのできない自然現象なのです。造山運動により、位置エネルギーを高められた大地は、風や雨、地震等の作用により風化、侵食、崩落を繰り返すがこれらの現象は大地が不安定な状態から安定な状態へと変化する一過程であるといえます。
つまり、重力場の中で物質が運動エネルギーを放出しながら位置エネルギーの高い状態から低い状態へと変化することです。川は水の作用によって土砂を山から海へと移動させるのです。この現象は位置エネルギーが0になるまで続くものです。つまり土砂の流出は重力のあるかぎり永久に続く現象なのです。
 現在の砂防政策の目指す方向は、これらの現象をあたりまえのものとせず、なにがなんでも土砂の流出を止めようとしているところに、多くの矛盾をかかえこむ結果がでています。今のやり方で行けば、谷をさかのぼり山頂近くまで砂防堰堤を造らざるをえなくなります。極端なことをいえば山全体をコンクリートで覆うことになり兼ねません。
 砂防ダムの目的は本来、下流域の人命、財産を守る為に土砂流出を抑制することにあります。しかし、上流部の開発や山林の完全伐採、問題のある林道の建設など、土砂流出を促進させる要因を考えもせず、単に対症療法的に砂防ダムを造ってきたといわざるを得ません。
 砂防ダムは河川の景観や生態系を壊しているだけではなく、適正な土砂移動が阻害されることで海岸侵食、磯焼け、河床低下、セメントに混ぜる小石や砂の不足など、誰の目から見ても明らかに負の現象が生じています。
 多くの河川で砂防ダムによって、下流に必要な砂や石が流れてこない状況が作られ、そのためにどんどん岩盤が削られて、河床が下がっています。その結果、橋は土台の付け根から削られてしまい、再工事が必要な橋脚も出てきました。農業用水用の堰も河床の低下によって、高くかさ上げしてやらないと、水が引けないなどの問題が生じています。また、せっかく護岸しても、肝心の河床が掘られ崩落し、再工事しなければならない箇所も多数出てきています。砂防ダムによって悪循環がえんえんと繰り返されているのです。また、河畔林も河床低下により、傾いたりし、その支持力が弱まってきています。これは、集中豪雨などの増水の際に、河畔林ごと流されて、被害を拡大する恐れが出てきています。
 さらに、生態系についてですが、砂防ダムによってイワナ・ヤマメなどの魚の移動が遮られてしまいます。川の分断化上下流の交流をなくすることは、近親相姦が進み遺伝的多様性が失われ絶滅の危険性が高くなってきます。

 どんな沢でも数十年に1回くらいは豪雨によって崩れることがあります。でも、まったく被害を受けない小沢も必ずいくつかあるものです。それは、不安定な場所が一度崩れてしまえばその後何十年か崩れにくくなるからです。つまり、河川のすべての沢が崩れる確立は非常に低いのです。そうした小沢に逃れた魚が時間をかけて、本流や他の沢に移っていき、全体に拡幅するメカニズムになっています。ところがそこに砂防ダムがあったらどうなりますか。
川の生態系で重要なことは、本流から支流へ、支流から本流へとイワナ・ヤマメなどの渓流魚たちが、移動可能な連続性にあります。それが絶たれてしまえば、渓流魚の数が減少していくことは避けられません。砂防ダムは渓流の連続性を完全に遮断してしまう行為であり、結果的に生態系に致命的なダメージを与えてしまうことになります。
元来、川、沢には土石流に対する調整機能が存在します。それは淵であったり、峡谷部であったり、滝であったりします。落差10mの滝が大増水によって、全く姿を消してしまったなどという事例はいくらでもあります。そして、それは、また徐々に侵食されて、元の姿に戻っていくわけです。
このように川には、ある程度の調整機能が存在しているわけです。それが十分機能しないのは、森林の乱伐であったり、無用のダムの建設であったり、無用の大規模林道の建設の為です。
防災面からいっても砂防ダムに頼るのが以下に危険なのかいくつかの事例を紹介します。1996年、長野県の小谷村浦原沢(おたり村がまはら沢)の土石流災害では死者14名が出ています。ここ砂防の総貯砂量は1万5000立方mで、災害時の流出土砂量は約10万立方mと推定されています。また、鹿児島県の出水市針原川(いずみ市はりはら川)で1997年に起きた災害は死者21名、ここの総貯砂量は2万2000立方mで、災害時には20万立方mの土砂が流出したと推定されています。
しかし、秋田県の鹿角市八幡平登川温泉で1997年に起きた災害の場合は、流出土砂が200万立方と大きかったにもかかわらず、死者は出ていません。しかも、ここには砂防ダムは1基も無いのです。これらの事例は大規模災害に砂防ダムがいかに無意味であるかを、如実に示しています。
大事なことはハード面に頼らず、危機意識を持つか、そして、避難の体制をいかに確立するかにあります。逆に砂防ダムがあるから大丈夫だとの気持ちがあり、避難に遅れをきたすおそれがあります。
これらの多くの諸問題を総合的に捉えた場合、環境面、防災面、財政面を解決するという3要素を考慮しようとすれば、土石流や土砂のでることを前提にした、つまり谷筋は土石流の通り道であるというあたりまえの考えの基に、対策を立てること必要があります。できうる限り砂防ダムを造らない、可能な限り砂防ダムを減らす、必要ならば既存ダムを環境型へと改修する必要があります。

既存ダムのオープン化が上記の3要素を満たすことにつながっていくだろうと思われます。良好な河川環境を作る必要ために、既存の砂防ダムのオープン化、スリット化が必要です。

本稿は2004年9月米沢市議会において、「既存の砂防ダムのスリット化」を求めた質問を元に修正、加筆したものです。(わがつま とくお)