「か」さんの体験記そのB
今回は、ギターのお話です。
コンサートに行きましたー報告(その3)
(財)米沢上杉文化振興財団 主催
KOTARO OSHIO CONCERT TOUR 2005
Panorama
平成17年10月23日(日) 18:30開演
伝国の杜 置賜文化ホール
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これまで、クラシック以外で長く興味を引かれた音楽家というと、私の場合、イー
ジーリスニングに分類されているピアノの作曲・演奏の「中村由利子」さん、ボサ・
ノヴァの「小野リサ」さんです。が、数年前、何気に(この何気にというのが人生に
とって無視できないものでして・・・)深夜のNHKの番組を観ていたら、誰か歌手と
一緒にギターを演奏していたのが、この「押尾コータロー」さんなのでした。ギター
のことは、私には殆ど分かりません。でも、弦の中間を軽く押えて倍音を出す“ハー
モニックス”の何ともメロウなこと。かと思ったら、今度は、弦を叩いて音を出す
“タッピング”とか、左手の一本の指で弦を押えて、左手の別の指でその弦を弾いた
り、観ても聴いても何だかよく分からない技法を次々と使いこなして、その結果、2
人以上で演奏しているような、すさまじく迫力のある演奏になったりして。その夜以
来、押尾コータローの名前が忘れられなくて、CDも、ついにはギター用の楽譜も
(自分はギターは全くできません)買い揃えて、とりあえずピアノで弾いてみたりし
て・・・。インディーズ時代(いわゆるメジャーデビュー以前のことを意味するみたい
です)のCDまで買って聴いてみたら、アニメの「リボンの騎士」の音楽をギター1
本で弾いてたり。ともかくすごい人がいるなぁ〜と思ってたのでした。だって、何度
CDを聴いても聴き飽きないんだもん。ちなみに、かのクロード・ドビュッシーは、
ギターを“小さなオーケストラ”と表現して、その楽器の性能をたたえたとか・・・。
そんなある日、伝国の杜でコンサートをやるとのポスターを見つけて、「これっ
て、何かの錯覚?」と思って、自分のほっぺたをつねったりして(近くに人がいたの
で、あくまで心の中で)!で、発売初日にさっそくチケットを手に入れたのでした。
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クラシック以外のコンサートに行くのって、かなり久しぶり。山形市での中村由利
子さんのコンサートを除けば、多分・・・・・、25年ぶり!演歌歌手の吉幾三さんのコ
ンサートに行った以来(何で自分が吉幾三のコンサートに行ったか、その経緯は全く
思いだせない・・・。行きたくて行ったのではなかったような・・・、ただ、周りの席のオ
バさん達のお化粧のむせるような匂いだけが記憶にべったりとこびりついているので
しゅ・・・)だから、会場に行って、プログラムもなかったから(ポップスの場合はこ
れが普通なのかなぁ)何の曲を演奏するかも分からず、いつもと勝手が違うんで何だ
かキョロキョロしちゃって・・・。会場の扉から、ライトアップのためのドライアイス
の煙なんかが漏れてたりして。とりあえず新譜のCDを買って、開演を待ったのでし
た。
開演時刻になったら、あたりが真っ暗になって。かと思うと、マリンブルーの光で
ステージが照らされ始めて(照明効果を正確な色彩用語を使った文章で説明するのは
めんどうなので、あとはしません)、おもむろに押尾コータローが登場!!かっちょ
いいっ(注:結婚してて子どももいるとのこと)!新曲も含めて沢山の曲を演奏しま
したが、とにかくすごいんだなぁこれが。このホームページをご覧になる方は、多分
クラシックファンの方が多いと思いますので、これに沿って説明しますと、あの、
モーリス・ラヴェルの「ボレロ」だって、ギター1本で弾いちゃうんだよ!!これっ
てすごすぎない?(うわさによれば、この曲をギターソロ用に編曲できたのは世界で
2人だけとか・・・。チューニングをどうのこうのと工夫するらしい・・・。)かと思う
と、正座して、ギターで津軽三味線の曲を弾いたりして(さすがノリのいい関西人
じゃっ)。かと思うと、観客席をまわりながら、子ども客の前でドラエモンの出だし
を弾いたりして。器用だなぁ。ギターが死ぬほど好きなんだろうなぁ。ちなみに、こ
れほどの高度な技巧を使いながら(いや、それゆえに)、演奏中、体の何処にも無駄
な力が入っていない!技術については、ここが、とても重要な気がします。オーロラ
やスイスの湖からインスピレーションを受けて作ったという新曲の、何ともメッセー
ジ性の豊富なこと。クラシックの演奏では、よほど上手い演奏でない限り、はっきり
言ってこれ程のメッセージ性(注:政治理念とかじゃないからね)は受けないなぁと
か、後で考えさせられたりして・・・。アーティキュレーションも、実にのびのびとし
ていて。「自分も音楽が好きだし、あなたもそうでしょ?」って、ずっと問いかけら
れてる感じで。で、演奏を聴きながら、ひたすら「そうだよ、音楽が好きだよ」と無
言で答えている感じになったりして。あのメッセージ性を言葉にすると、こんな風に
なるのかなぁ。
話が飛びますが、最近の研究によれば、生まれたての赤ちゃんには、五感(視覚、
聴覚、触覚、味覚、嗅覚)の区別がないんだそうです。「無様式知覚」といいます。
この未分化な状態で感じとられるものは、感覚の抑揚とか、強弱の変化とか、そうし
たものだそうです。多分、赤ちゃんの神経、筋肉、脈拍など全身も、その抑揚に時々
シンクロするのでしょうね。赤ちゃんの感覚の世界って、こんなものらしいのです。
で、大人になっても、音楽を聴いている時、無意識にこの赤ちゃんの時の未分化で無
垢な感覚が呼び起こされるらしいのです、いい演奏の場合ですけど。スポーツの時の
快感とも、知的好奇心を満たした時の快感などとも違った、何か原初的な快感(おお
げさにいえば、生まれてきてよかったといった類の幸福感)・・・。
で、押尾コータローの演奏は、この原初的な幸福感に浸らせてくれるように思いま
した。そういえば、前回、須田真美子(敬称略)についても、演奏をシルクのドレス
の線を見ているみたいと、聴覚を視覚的に表現したり、赤ちゃんみたいに体が温まっ
て、全身が耳になったような感覚になったとか、これに近いことを書いていた自分
に、今になって気が付いたりして。やっぱ、音楽の力って、何かすごいもんだなぁ
と、つくづく思いました。
ところで、どんなに押尾コータローの演奏に感激しても、会場で浮いちゃうといけ
ないから「ブラボー」は決して言うまいと自分に言いきかせてコンサートに行ったの
でした(笑)。しかし、演奏を聴いて感激したけど、どっかの兄ちゃん達があげてい
るような、裏声の、ヒューヒューとかいう声も、何だか恥ずかしくて、少なくとも自
分には出すことができなかったのでした(爆)。やっぱり場慣れって大事っすね、
ちゃんちゃん(こんなんで、上手く話しにオチがついたのかなぁ・・・)。押尾コータ
ローの生演奏は、またいつか聴きたいな。(文責は「か」)